世界でただ1人「希少種ゴキブリ研究者」の実態 沖縄で採集しお持ち帰り、でもゴキアレルギー
東洋経済オンライン / 2024年9月7日 19時0分
ゴキはゴキでも、その辺にいるゴキではない。沖縄のやんばるに生息する「クチキゴキブリ」に魅せられ、世界でただ1人その研究をしている人がいます。行動生態学を専門とする大崎遥花さんです。
大崎さんの初の著書『ゴキブリ・マイウェイ この生物に秘められし謎を追う』では、ゴキブリ愛にあふれた研究生活がさまざまなエピソードとともに紹介されています。
同書から抜粋し、3回にわたってお届けします。
第1回は、「クチキゴキブリ」との出会いについてです。
手荷物の中はゴキブリでいっぱい
毎年4月頃、那覇空港で重たそうに巨大なスーツケースとリュックを抱えて早足で歩く人間がいる。ハイキング帰りのような格好で、搭乗時刻ギリギリであるためとても急いでいる。一見ありふれた光景と思われるかもしれないが、そんな人間を見たら本稿の著者である私の可能性が高いので近づかないほうがいい。
なぜって?
巨大スーツケースもリュックも、ゴキブリでいっぱいだから。
ゴキブリといっても、そのへんにいるゴキブリを想像してもらっては困る。私が研究しているのはクチキゴキブリという、森林の奥でひっそりと暮らす害虫ではないゴキブリなのだ。
特に生物に興味のない人が、ある日山に登りたいと思い立ち、登山の道すがらで目に留まった朽木(くちき)を突発的にボコボコに割り出したりすることなく生涯を終えるのであれば、およそ人生に登場することのない昆虫である。もっとも、著者のように朽木を割りまくる人生を選んでしまった場合はその限りではない。
一度、機内持ち込みしたリュックを抱えて離さなかった私を見かねたキャビンアテンダントの方に「中身は何ですか?」と聞かれたことがある。私は咄嗟に、
「……土です」
と言ってしまった。
しかし、弁明させてほしい。ここで正直に「ゴキブリです☆」などと元気よく答えてしまったら、キャビンアテンダントの方の精神が耐えられる保証がない。むしろ耐えられない可能性を積極的に考えたほうがよい。
もし、仮に、万が一、キャビンアテンダントの方が屈強な精神の持ち主で持ちこたえられたとしても、私の隣に座った乗客のメンタルが無事ではあるまい。その後約1時間のフライトをバイオハザードな恐怖に震えて過ごさせてしまうのは忍びないではないか。
もちろん、ゴキブリを入れている容器はすべて確実にロックできる構造のものを使用しているし、リュックをひっくり返したところで、1頭たりとも逃げ出すことはない。音も臭いもない。当然、機内持ち込み禁止物でもない。しかしそんな現実的な話は関係ないのが人間の感情というものだ。
土の入った容器にたまたま…
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