経営者SNS「セクハラ軽視発言」の本当の被害者 「セクハラなんて可愛く思える…」と発し、炎上
東洋経済オンライン / 2024年9月7日 10時0分
吉野家の従業員たちからしてみれば、とばっちりにも程がある。「身から出たサビ」なら自業自得と言えるが、当然ながら「シャブ漬け戦略」が社是だったとは到底思えない。また元常務は、吉野家の生え抜きではなく、外資トイレタリーメーカーからの転職組だった。プロパーで頑張っている人々からすれば、ぽっと出の人間に、積み上げてきたブランドイメージを崩されてしまった悲しみは、どれほどだったのだろうか。
SNSに目を向けると、同じく外食チェーンの「焼肉ライク」の社長(当時)による投稿も、ちょっとした炎上状態となった。
「『焼肉ライク行くよりスーパーで買った肉を家のフライパンで焼いた方が安いんだよな…』というつぶやきがイラッとしました笑」との投稿に批判が集中。おそらく自社サービスに、強い自信があったことの裏返しだったと考えられるのだが、一見すると「消費者批判」に読める文面だけに、心証を害したユーザーは多かったようだ。
不適切発言は「従業員への影響」も決して小さくない
いくつかの例を振り返ってきたが、どのパターンにおいても、トップや、それに準じる人の発言によって、苦境に立たされるのは「善良な従業員」だ。売り上げが減れば、給与や雇用が不安定になる。経営層と従業員には、疑いようのない待遇の差が存在する。
また、このSNS社会においては、従業員が個人攻撃される可能性も否定できない。そうなれば、触れるも触れないもイバラ道。なんらかのスタンスを示さないと「ダンマリか」と言われ、示せば示したで「反省が足りない」となってしまう。
そうした末路からスタッフを守るのも、これまた経営者の役目ではないだろうか。立場のある人間は、その一挙手一投足を、消費者やネットユーザーの「鋭い目」で見られていると意識するほかない。
成功者であればあるほど、自分の経験や感覚に自信があり、そこに重きを置く心情は理解できる。ブレないビジョンは、事業発展の原動力にもなる。しかし、必要に応じて、自分の感覚を疑い、柔軟に自説をアップデートする心構えも重要だ。
どれだけ忠誠を誓った側近よりも、むしろ見知らぬ第三者のほうが、的確な忠告をしてくれていることもある。ネットユーザーからのバッシングの多くは、表現こそ口が悪く、あおり気味ではあるのだが、その根っこにある価値観は、意外とまっとうなことも珍しくない。
ある分野で成果を残した実業家であっても、まったく異なる業種で成功するとは限らない。再現性が確保できなければ、その成功体験も限定的なものになる。これをSNSに置き換えると、「主語を大きくしようがない」ことと同義だ。
SNS時代の経営者に必要なのは、ネットの荒波にもまれることを前提に、自分が「井の中の蛙」であるかもしれないと自問自答する謙虚さなのかもしれない。
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城戸 譲:ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
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