大国インドが中国のような独裁にならなかった訳 絶対的な強権支配が成立しにくかった土壌
東洋経済オンライン / 2024年9月16日 18時0分
20世紀の終わりくらいから、首相は北部出身ヒンドゥー教徒が就任することが多いのに対して、大統領には、南部出身者、ムスリム、ダリト、先住民族出身者などマイノリティ出身者が就任しています。このあたりに、多様性の国インドの絶妙なバランス感覚があります。
激しい社会的差別と刻苦勉励による社会的な上昇の可能性、それを許す政治的仕組み。インド社会を見るうえで重要な視点です。
こうした政党の動きから、インドの人権意識がどう変わっているかも、見て取ることができます。
モディ首相もカーストとしては下のほうの出自ですが、インドの首相としてグローバルサウスを率いて10年になります。インドは世界最大の人口大国となり、ひょっとしたらモディ首相の在任中に、世界第3位の経済大国になるかもしれません。
「ムスリムを差別している。ヒンドゥー至上主義だ」と非難されながらも、経済発展を実現させていますし、テクノロジーの発展にも尽力。たとえば銀行口座が持てなかった貧困層でも、スマホの生体認証で商売ができるようにしたことは、新たなビジネスを生んだと評価されています。
新時代の国際的リーダーとなり得るポテンシャル
もともとが多様なインドは、地理的には西洋でも東洋でもない元祖中庸の国。民族としてはアーリア系というヨーロッパ系とも近しい血もあれば、ドラヴィタ系の人もいます。宗教としては東洋系のヒンドゥー教、仏教の国。さらにウパニシャッドという最古の教えをもち、ゼロの概念を生み、量子力学にも通じるという哲学的な深みが底力となっています。
私の個人的な経験を振り返っても、インド人の多くはコミュニケーション能力が抜群に高く、いわゆるマルチと言われる国際会議の場ではすぐに「場の中心」になります。あらゆる要素を内包しているためか、インドという国そのものが、国際社会で独自の立ち位置を確保しているのです。
「インドのポテンシャルを考えた場合、新時代の国際的リーダーになるんじゃないか」
この難しい国際情勢で「中国ともロシアとも、ほどほどに付き合いつつ近寄りすぎない」という巧みなスタンスを見ていると、新リーダー・インドも現実になりつつあると感じます。
ただし中国とはカシミールをめぐる国境問題がありますし、国内では格差と貧困が深刻です。インフラを整えようといってもトイレもない人々が未だいるのは、大きな課題といえます。女性首相も存在したとはいえジェンダー・ギャップ指数は低く、女性への性暴力もたびたび報道されているので、見聞きしている人も多いでしょう。また、先に述べた通り、モディ政権の政策でムスリムが権利を奪われるなど、宗教対立及び人道上の問題が深刻化しています。2024年6月に結果が出た総選挙では、モディ首相の率いるインド人民党は第一党を維持したものの、議席を減らしました。
そして人々は、国政を握る二大政党よりも地元の地域政党にシンパシーを感じることもあるように思います。
インドは投票しないことに罰則はないのですが、国政選挙でも州選挙でも60〜70%程度の投票率を誇ります。おそらく「政治がちゃんとしないと、自分たちの生活が困る!」という切実さを反映しているのでしょう。これからの世界で、インドがどう頭角を現していくか注目したいところです。
山中 俊之:神戸情報大学院大学 教授、国際教養作家、ファシリテーター
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