夫の死後「積年の恨み」晴らす「死後離婚」驚く実態 義理の家族と「完全に縁を断ち切る」方法は?
東洋経済オンライン / 2024年9月20日 9時30分
それでも、まだまだそういった古い価値観も残っています。
民法では「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」とされています(違反しても罰則があるわけではありませんが)。
つまり、実子や孫、同居する親族には介護義務があるのですが、A子さんには当てはまりません。
A子さんと義理の家族、つまり「婚姻によってできた親戚」は「姻族」といいます。
姻族に介護義務はありませんが、夫が亡くなったとしても、縁が切れるわけではありません。
困ったときに助け合いが望まれる関係性は残るのです。
亡くなった夫には申し訳ないけれど、A子さんは義理の家族とは「もう親戚付き合いさえしたくない」「完全に縁を切りたい」と考えました。
A子さんのように、配偶者の死後に義理の家族と縁を切りたいという場合、「姻族関係終了届」を提出することで、それが可能になります。
「姻族関係終了届」の提出は、「死後離婚」などと呼ばれます。
役所にこの届を提出するだけで、姻族(配偶者の血族)との縁は断ち切られ、扶養や介護を求められることもなくなります。
遺産や遺族年金の受け取りに支障はない
「姻族関係終了届」は、配偶者の死後であれば、いつでも提出することができ、提出期限もありません。
配偶者の血族との関係性(姻族関係)が終了するだけなので、配偶者との関係、つまり相続人としての権利や立場まで失うわけではありません。
配偶者の遺産を返却する必要もありませんし、遺族年金も受け取れます。
また、子どもには影響しないので、祖父母と孫の関係性に変わりはなく、代襲相続人としての権利も残ります。A子さんの場合、今後義理の両親が亡くなれば、子どもがA男さんの代わりに相続人になります。
本人の意思で提出できるので、縁を切る相手(義理の家族)への報告義務もありません。
相手にすれば「勝手に縁を切られた!」ということになりますが、実際には戸籍を確認しないかぎり、気づかれることもありません。
A子さんは介護を断るために義理の家族に報告したそうですが……、やはりひと悶着あったそうです。
戦後、憲法改正によって「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」とされました。
しかし実際には、戦前の家制度による「女性は男性の家に嫁ぐ」「長男が家業を継ぎ、家督を相続する」といった結婚観・家族観、そして結婚は双方の家が結びつくという意味合いも強く残っていました。
家制度の名残はあれど、夫婦関係はフラットなものに
しかし、現代では夫婦はフラットな立場で助け合うのが当たり前となり、「嫁は舅・姑に仕えるもの」「介護は嫁がするもの」というような考えは時代遅れのものとなりつつあります。
とはいえ、まだまだ古い価値観をもつ人も少なくありません。
そういった中、A子さんのように、「姻族関係終了届」による死後離婚を選ぶ人が増えています。
「死後離婚」増加の背景には、配偶者の死後も配偶者の「家」との関係性が続くことに対する違和感や拒否感を抱く人の増加があるのでしょう。
ただ、「姻族関係終了届」は、一度提出すると元に戻すことはできません。
メリットも多い制度ですが、いざというときに相手(配偶者の血族)に頼れない、人間関係の悪化などの面もあります。
よく考えてから提出するようにしましょう。
松尾 拓也:行政書士、ファイナンシャル・プランナー、相続と供養に精通する終活の専門家
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