あの「ポーター」が人気商品を大胆に変えた裏側 価格2倍にしても素材変えた吉田カバンの挑戦
東洋経済オンライン / 2024年9月20日 13時0分
過去においても、タンカーは、その時代が求めるものを取り入れ、仕様を変えてきた経緯があった。しかし今回は、コロナ禍による危機感が背中を押したところもあり、抜本的な改変をはかったのだ。
立てたコンセプトは「ALL NEW TANKER―何も変わらず、何もかもが変わる」――「5年後、10年後に振り返った時、正しい道を選択したと思えるよう、慎重かつ大胆に判断し、進めようと考えたのです」(吉田さん)。
それまで使っていたナイロンは、サステナビリティが重視される時代が求める方向と道を違えている。他の素材に変えられないかとリサーチを重ねた。東レが開発途上にあるナイロンと出会い、それを製品化して量産し、新しいタンカーを生み出そうとなったのだ。
吉田さんは1984年生まれ、40歳という若い社長だ。祖父である吉田吉蔵さんが創業した吉田カバンは、2代目が叔父、3代目が父、そして4代目を吉田さんが受け継いで4年目を迎えたという。
ファミリービジネスの4代目だから、幼い頃から「継ぐ」ことを意識していたのかと聞いたところ、「まったくありませんでした」ときっぱり――。柔道が好きで、何らかのかたちでスポーツにまつわる仕事に就こうと考えていた。
しかし就職活動の過程で、自分の辿ってきた道を振り返ってみると、吉田カバンという企業とのかかわりが色濃いことに気づかされた。創業者である祖父の家は仕事場とつながっていて、吉田さんが訪れると、祖父が「よく来たな」と迎えてくれた姿や、夜行で訪れる地方の取引先に祖母が朝ご飯を出している様子、誕生日に祖父から手縫いのカバンをプレゼントしてもらったことなど、「人生の思い出に吉田カバンがあったのです」。
入社を決心し、父である社長に話したところ、最初は反対された。家業だからという軽い気持ちで入るのはよくない――真剣に話し合って真意を理解してもらい、イタリアの専門学校に通ってから現地で働き、29歳で帰国して入社した。品質管理から始まり、さまざまな部署で経験を積んだ後、36歳で社長の任に就いたのだ。
初代は29歳で吉田鞄製作所を設立
吉田カバンは1935年創業というから、90年近くにわたり、カバン一筋で歩んできた老舗企業。創業者である吉田吉蔵氏は、12歳でカバン職人を目指したが、17歳の時に関東大震災に遭遇する。
ものを運び出している人々の様子を見て、「カバンは、荷物を運ぶ道具としての役割をしっかり果たすものでなければならない」と、29歳で吉田鞄製作所を設立した。使うほどに馴染み、永く愛用してもらえるカバンを人々に提供することを標榜した。
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