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80年代女子プロ描く「極悪女王」に思わず流れる涙 人間ドラマとゆりやん達の演技に引き込まれる

東洋経済オンライン / 2024年9月21日 10時0分

そんな彼女たちの内面には、激しい嫉妬や苦悩、葛藤にあふれている。どんなに悔しくて苦しくても、ときにはプライドを捨てるしかない。それでも歯を食いしばって一生懸命に生きていく。

テレビ放送のゴールデンタイム枠で、血みどろの女性たちが闘うプロレスの流血試合が生中継されていた時代に、社会や組織、自身のプライドと闘いながら、必死に生きた女性たちがいる。

そんな女性たちの生き様を赤裸々に映すから、その映像にはとてつもなく大きな引力がともなう。

本作には、多くのプロレスシーンがある。5年を費やした制作準備期間のなかで、女優陣はプロレス道場に入門し、体作りと技の練習に明け暮れた。その結果、プロレスシーンの99.9%が吹き替えなし。それぞれが演じた当時のレスラーたちへの感情移入もあり、熱い思いがこもった撮影になった。

身も心もこの作品に投じた唐田えりかは、撮影を振り返り「私にとって本作はこれからの人生を考えたうえでの挑戦であり、覚悟のひとつでした。もし、この作品に出合えていなかったら、自分はどうなっていただろう……。自分はまだまだがんばれる、がんばらなきゃいけないと思わせてくれた現場でした」と配信記念イベントで涙を流した。

ゆりやん「自分のボーダーを超えられた」

ダンプ松本を体型から体現したゆりやんレトリィバァは「これまでの殻を破って、自分の感情と向き合えたことに感謝するばかり。いままでは、自分のなかのボーダーラインを超えて感情を表に出すことができませんでした。この作品に出合って、自分がボーダーを超えられることも、その超え方も、引き出してもらいました」と熱く語っている。

一方、総監督を務めた白石和彌氏は「これまでにいろいろな作品を作ってきましたが、死ぬ前に見る作品は『極悪女王』だと思います」とまで語るほど思い入れの強い作品であることを明かした。

そんな熱量が存分ににじみ出る、エネルギーにあふれた作品なのだ。

レスラー役の女優たちの熱演が光る本作だが、そんななかでひと際、存在感を放っているのが、プロレス団体運営者のひとりを演じた斎藤工だ。

80年代の興行者のうさんくささを見事に体現し、いまの時代から見た滑稽さを巧みに演出している。とくに前半とは印象が変わる後半の怪演ぶりは、思わず笑ってしまうほどのインパクトがある。本作のキーマンでもあるだろう。

そんな彼のセリフが本作のテーマを伝えている。

「実力でトップが取れるならアマチュアと一緒。実力以上の魅力がないとプロの世界のトップは務まらない」

そんな世界を必死に生きた彼女たちの感情には、現代人も共感できる普遍的な要素が多いと感じる。時代は変わっても、誰もが社会で生きるなかで、何かしらの悩みや葛藤を抱えている。彼女たちのなかに、自分自身の姿を見ることがあるかもしれない。

ラストシーンでは涙が自然に出てくる

彼女たちの闘いにいつのまにか引き込まれて、感情移入しながら物語に没頭していると、ラストシーンで胸が苦しいくらい熱くなる。そして、涙が自然にあふれてくる。

その感情の正体は、喜び、うれしさ、悲しさ、悔しさといったひとつの要素の感動ではない。社会で生きるなかで抱くさまざまな感情が織り交ぜられた、心の震えなのだ。それは心地よくもあった。

本作にはそんな感情の揺さぶりがある。誰もが何か感じることがあるであろう、この秋必見の配信ドラマだ。

武井 保之:ライター

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