自民党「空騒ぎ総裁選」で最後に笑うのは誰か? 「政治に期待できない」空気感がより強まる懸念も
東洋経済オンライン / 2024年9月26日 8時0分
立憲民主党の新代表が元首相の野田佳彦氏に決まったことで、前政権時代に消費増税を強行したことなどが改めて論評され、政権交代に対する警戒感すら漂っている。とりわけ増税や物価高で不安と不満のスパイラルに陥っている多数の国民の現状を踏まえると、ポピュリズム的な熱狂の引火性が高い状態にあるといえる。
神学者の森本あんりは、『異端の時代 正統のかたちを求めて』(岩波新書)で、「ポピュリズムのもつ熱情は、本質的には宗教的な熱情と同根である」と述べた。
かつてであれば社会的な課題を解決したいと思った人々は、既存の政治団体や宗教団体を通じて何らかの変革を模索したが、このような中間集団がその機能を担うことが困難になったことが問題の根本にある。そのため、ポピュリズムは「宗教なき時代に興隆する代替宗教の一様態」になっているのである。
「善と悪の闘争」という物語をその中心に据える危うさ
しかも、ポピュリズムは、善と悪の闘争という物語をその中心に据えている。旧世代と新世代、エリートと庶民、金やスキャンダルにクリーンな人間と汚れている人間……わたしたちは明快で単純な物語に感情をあおられ、「悪」とみなした人々を徹底的に糾弾することに血道を上げかねない。
なぜなら、闘争には、自分のアイデンティティを正当化する面があるからだ。現在の自分がおかれた境遇を打開してくれそうな、あるいは既得権益にまみれた既存の社会を破壊してくれる政治家を待望するのである。
当然ながらその政治家が主導権を握ったからといって思った通りになるかどうかはまったく別の話だ。けれども、自分のお好みの物語への書き換えを無意識にしてしまうわたしたちは、残念ながらこのような闘争になびく性質を少なからず持っている。
誰もが誘惑を自覚する必要がある
前出のゴットシャルが、「私が『物語の語り手(ストーリーテラー)を絶対に信用するな』と声を大にして訴えたとき、私はあなたに呼びかけていただけではない。あなたのことを言っていたのだ。私たちは皆ストーリーテラーであり、だから信用してはいけない――誰よりも私たち自身が」と主張したように、物語を語る側でもあるわたしたち一人ひとりがその誘惑を自覚する必要があるのだろう。
聞こえの良いフレーズや、民意を無視した公約、要領を得ない発言などが躍る自民党の「空騒ぎ総裁選」。最後に笑うのはいったい誰だろうか? もちろん、その人物は自民党の候補者ですらないかもしれない。ひょっとしてこれは新たな悪夢の始まりにすぎないのだろうか?
真鍋 厚:評論家、著述家
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