フランス新首相の就任はEU瓦解への前奏曲だ 「民主主義を守る」戦争を止められないNATOとEUの限界
東洋経済オンライン / 2024年9月28日 9時0分
選挙で多数政党が決まらなければ、首相決定がままならず、そこで首相不在の政治的空白が生まれる。だから、一般的には多数政党から選ばざるをえないのだが、新人民戦線、国民連合、アンサンブル(政党連合)が三つどもえの状況では、どの政党から選んでも混乱は避けられない。
ミシェル・バルニエは、ある意味興味深い人物ではある。ビジネスのグランゼコールを卒業後、経済界ではなく政治の世界に入り、地方活性化や環境問題に従事してきた人物である。
やがてEU議会の議員となり、EUの政策の中心に立つ。とりわけ、彼の手腕が発揮されたのは、イギリスがEUから脱退したあのBrexitの時であった。
イギリスの脱退でEU内に激震が走り、EUから出ようという国に拍車をかける可能性があった。そのとき奔走したのがバルニエである。
バルニエは、調停役(ネゴシエーター)として知られる。イギリスのBrexitを各国対応ではなく、EU全体の対応にしたのが彼で、イギリスだけの脱退ですんだのは彼の手腕によるところ大であったと言われる所以はここにある。
マクロンを含めEU内の政権は、EUという国家を超える力で、国内の政治を乗り切ろうとしている。たとえ国内の選挙で敗北しても、EUという錦の御旗の前で、各国の国民に譲歩させるのである。その意味で、フランスの首相にEUの長い経験のある人物を置くことは、マクロンにとって都合がいい。
しかし、ここに大きな問題が含まれている。各国の主権がEUの主権によって制限されてしまうという問題である。
EUの主権に縛られる加盟国の主権
この問題は、20年前にEU憲法批准をめぐってなされた反対意見の中に含まれていた、EUを構成する国家の国民主権問題である。EUが国家であれば、国家は解体し、国民はEU国民となる。
しかし、現実にはEUは国家調整機関にすぎない。もちろん、さまざまなEU規制が国家の自治権を拘束していることも確かだが。だから、EU憲法批准が各国で大きな問題になったのである。
マクロンが国内で劣勢になった権力を、EUという虎の威で克服しようとしていると見られても仕方がない。EU議会においてフランス選出の議員の多くは反マクロン派であるとしても、マクロン自体はEU全体の多数派に属している。
さらにバルニエは、保守派である。保守派は経済を握る資本家層にとって受けがいい。国民の声とは裏腹に、国家をたぐる上層の人々の意にかなった人物だといっていい。
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