1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

延べ880万人、日本一のお写経道場に託された思い 薬師寺は般若心経のお写経を広める役割を果たしてきた

東洋経済オンライン / 2024年9月30日 11時0分

薬師寺は葬儀・法事を行わない。そのため寺を運営する収入源は拝観料や寄進が主となり、伽藍復興はお写経勧進が大きな役割を果たした。奈良時代の寺院は、現代人が寺に抱くイメージとは異なる、「在り様」を持っているのである。

スローガンは「心を耕そう」

現在、大谷さんは「心を耕そう」をスローガンに全国で法話行脚を行う。

「仏教は、2500年前にお釈迦様がお説きになられ、2200年前に初めて文字になりました。文字になったお経の中に、『人間は恨み深い』『恨みなき心によってのみ恨みは消える』と書いてあります。すべて心の問題なんですね。

しかし、現代人は物やお金を持つことで心が幸せになれると考えるようになりました。その間、心の訓練を忘れてしまった。もう一度、自分の心の訓練をしなければいけない時代にあるのではないかと思うんですね」

道場完成以来、毎日誰かがお写経を行うために薬師寺を訪れる。その数は現在まで約880万巻(がん)――、つまり56年間に延べ880万人がお写経を書いたということになる。心の構築を求めている人は多い。

2022年6月、東京・五反田にある薬師寺の東京別院を舞台とした、NHK「ドキュメント72時間」が放送された。

参加者に「お写経をする理由」を問うと、「書くとスッキリする。心が休まる」とある人は笑い、「家族の健康を願って。自己満足かもしれませんが」とある人は語っていた。放送の反響は大きく、「3カ月で約1万人の方が訪れた」と大谷さんが振り返るように、心の中にある“何か”を模索する人は潜在的に多いのだ。

「般若心経というお経は、文字の数は270文字ほどしかないとても短いお経ですが、幸せを得るためには何をどうすればいいかといった意味が込められています。先輩なら先輩、親なら親。そうした役割が皆さんにはあります。自分に与えられた役割は? 環境を理解しているのか? 般若心経のお写経は、自分自身との対話なんですね」

道場へ入ると、香象(こうぞう)という白い象をかたどった香炉をまたぎ、身を清める。輪袈裟を首にかけ、自ら墨をすり、お手本の上に和紙を重ねて、下から写る文字をなぞる。

筆ペンで書くと、和紙との相性が悪くて文字が消えてしまう可能性があるといい、和紙に関しても、異なる和紙を重ねてしまうと腐食してしまうため、正倉院に残っていた和紙を研究して作られた越前の和紙のみを使用するこだわりようだ。

「お写経をされる方に、『何か心と頭に引っかかったものがありますか?』と尋ねると、皆さん『はい』と答える。

引っかかっていたものを忘れられる

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください