延べ880万人、日本一のお写経道場に託された思い 薬師寺は般若心経のお写経を広める役割を果たしてきた
東洋経済オンライン / 2024年9月30日 11時0分
私が、『夢中になってなぞっている間のそのときだけは、その引っかかったものは忘れていませんでしたか?』と重ねて問うと、皆さん『あー!』と気が付かれる。お写経をすると、いつしか夢中になっています。夢中になると、忘れることができる。心の問題は、夢中になって忘れることにより一度自分で引きはがしてみないと消化することができません」
ただなぞるだけ。だが、
「お写経は下から写る文字をなぞるため、自分の字は書きません。自分の字を書こうとすると、『上手に書いて褒められたい』という欲望が立ってしまう。そうならないために、ただなぞるだけでいいんです。これもまた、自分との対話になるのです」
誰でも咀嚼できるように布教してきたからこそ、今日の「日本一のお写経のお寺」と呼ばれる薬師寺はある。また、物理的なハードルを下げるために、約270文字の漢字のみで記された般若心経を、平易な言葉で紐解いた簡易版も用意する。
「高田好胤和上は目線の良いお方でした。子どもやお年寄り、時間のない方にもわかるように、法を説かれていました。さらに本当の心の修行は、 家庭生活の中の普段の時間にあると、私の師匠は考えておられました。そのため、家に持ち帰ってお経を書きましょうと広めていました。880万巻のお写経のうちの7割近くは家庭で書写されたお経なんです」
自分が書いたお写経がいつまでも残る
他の寺院で書いたお写経は、その大半がお焚き上げによってなくなってしまう。しかし、薬師寺は年に一度、1年間に行われたお写経を境内の納経蔵に納める「納経式」を行い、永代供養される。薬師寺があり続ける限り、自分が書いたお写経も何十年、何百年とあり続ける。1000年残るように――。薬師寺の願いは、奈良時代から変わっていない。
「寺院の存在が、お墓や法事だけであってはならないと思っています。お墓や仏壇も大切でしょう。しかし、薬師寺は自分で書いたお写経が、仏様と一緒に拝まれる対象になる。ここにも多くの方が、薬師寺のお写経をする理由があると思います」
すべての文字をなぞり終えると、最後に自分の名前と住所を書き、願い事をしたためる。和紙をお香にくぐらせて納めれば完了だ。
「願い事は何でもいいんです。人間は本当に辛い、苦しいことは人には喋らない。しかし、文字にして書くことで消化できることもある。お写経に吐き出すことで、自分を柔らかくしていただきたい」
自分が死んでも、自らが書いたお写経は生き続ける。薬師寺のお写経を、人々が求めるのには理由がある。
我妻 弘崇:フリーライター
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