岸博幸、森永卓郎への親近感を生んだ「共通体験」 スタンスは違っても、経済で目指す方向は近い
東洋経済オンライン / 2024年10月4日 15時0分
政策的にはまったくの「水と油」もいえる、慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏と経済アナリストの森永卓郎氏。ともに霞が関での宮仕えを経た後に、経済評論家や学者として活躍をするという道を歩んできた2人ですが、奇しくも2人とも、60を過ぎてからがんを患い、余命宣告を受けることになりました。
そんな2人が、行き詰まりを見せる日本の経済社会に向けたメッセージとして上梓した対談本『遺言 絶望の日本を生き抜くために』。主義主張の違いを超えて互いに親近感を抱いていたという2人ですが、多岐にわたる対談の中で岸氏は、その理由を初めて理解したといいます。
※本稿は、同書から一部を抜粋・編集してお届けします。
スタンスは違えど、共通する「貧乏」という原体験
森永さんと僕とでは、経済の捉え方や経済政策の考え方など、経済に関しては何から何までスタンスが水と油ほど違うのだけれど、不思議と森永さん本人、そして森永さんが主張する政策の方向性に対しては以前から勝手に親近感を抱いていた。
その理由はなぜかと考えていたが、今回の対談を通じて、2人ともかなりの貧乏を経験したという共通体験があったからだったのか、と初めて理解できた。
森永さんは自分がやりたい仕事に邁進する過程で極度の貧乏を経験し、おそらく奥様に多大なご苦労をかけたのだろう。
僕の場合、僕が中学生のときに親が離婚し、養育費ももらえない中で母が女手ひとつで姉と私を養うという、奨学金なしには高校も大学も行けないくらいの貧乏生活を経験した。
そうした共通の原体験があるからこそ、スタンスはまったく違っても、経済で目指す方向(国や企業よりも国民生活を豊かにする)が近いのだろう。だからこそ、僕は森永さんのことが大好きだし尊敬できるのだろう。
その森永さんと僕が、よりによって同じがんという病気を患っているというのも奇遇というしかない。
もちろん、僕はまだ余命があと9年もあるのに比べると、森永さんは残り4カ月という余命宣告を受け、人生の残り時間という点ではより切迫しているはずだ。それにもかかわらず、僕との対談に貴重な時間を割き、生き方や考え方を本音で語り続けてくれた森永さんの姿に、僕は「国士」を見た気がする。
森永さんの言葉には魂が宿っている
森永さんは「本当のことを言って死ぬ」と語り、実際にそれを実践されているが、これは簡単なようですごく難しいことだ。
残された時間とお金を、たとえば旅行や食事、趣味など自分の個人的な幸福追求のために使うという選択肢も考えられる中で、何よりも優先して他者のために自分の言葉を残そうと病身に鞭打って仕事を続けておられることは、言論人として生きてきた森永さんの真骨頂であろう。
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