11歳小児がん患者が直面「ドラッグロス」の絶望 海外製薬ベンチャーが日本での臨床開発を除外
東洋経済オンライン / 2024年10月4日 8時0分
国際化を進め、巨額買収を仕掛けた王者・武田薬品が苦戦する一方、中外製薬は創薬力を磨き時価総額で国内トップに立つ。『週刊東洋経済』10月5日号の特集は「製薬 サバイバル」。明暗分かれる国内製薬企業の今を追った。
2年前、当時9歳の長男、海智くんが「脳幹グリオーマ」という小児がんだと診断されたのは、大阪府に住む大門恭平さんだ。医師からは、余命半年と告げられた。別の病院もいくつか訪ねたが、医師から返ってきたのは「覚悟してください」という言葉だった。
諦めきれず情報収集を続けると、ある情報にたどり着いた。スイスの大手製薬企業、ノバルティス ファーマの薬を使った、脳幹グリオーマの遺伝子異常に対する「ダブラフェニブ」と「トラメチニブ」という2つの薬の併用療法に関する論文だった。
すぐには薬を使えなかった
薬は、特定の遺伝子変異のあるがんに効く「分子標的薬」というもので、薬が効くかどうかは、腫瘍細胞を調べなければわからない。受診すると、海智くんの脳腫瘍も適応となる可能性があった。
まずは腫瘍細胞を調べるための手術をする必要があった。重篤な合併症のリスクもある生体検査を乗り越え、幸いにも併用療法が効くタイプだと判明した。
一刻を争う状況だったにもかかわらず、すぐには薬を使えなかった。当時この薬の併用療法は、海外では小児向けで承認されていたものの、国内ではまだ一部のがんの成人向けでしか承認されていなかったのだ。海外で使われている薬や治療法が日本で使えるようになるまでの時間差のことを、「ドラッグラグ」という。
ドラッグラグは、希少疾患や小児疾患で生じやすい。患者数が少ないため、製薬企業からすれば、開発にかかる費用や手間に対して想定できる売り上げが小さいなどの理由から、開発が後回しになりがちだからだ。
米国と欧州では、製薬企業に小児用医薬品の開発計画策定を義務づけたことなどにより、ラグは解消しつつある。一方日本では、そのような取り組みが遅れている。
「ラグ」から「ロス」へ
薬が承認されるまでの間、患者には、海外まで赴く、薬を個人輸入する、治験や大学の研究に参加する、といった選択肢があるが、患者や家族の負担は膨大だ。
海智くんは、2023年に北海道大学が開始した小児向けの臨床試験に参加する形で薬を服用することができた。薬のおかげで腫瘍は小さくなり、身体症状は安定している。
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