11歳小児がん患者が直面「ドラッグロス」の絶望 海外製薬ベンチャーが日本での臨床開発を除外
東洋経済オンライン / 2024年10月4日 8時0分
だが入院や滞在、北海道~大阪間の複数回の移動などにかかった費用は総計300万円に上った。大門さんが悩み始めた頃、ついに国内でも小児向けでの併用療法が承認された。昨年11月のことだ。
ドラッグラグに対して、政府や企業が無策だったわけではない。例えば薬の審査期間は、以前と比べれば短縮されつつある。小児用医薬品の開発計画策定を努力義務とする動きも進んでいる。
しかし改善に向かい始めた頃、さらに厄介な問題が生じている。日本での薬の承認が遅れるのではなく、そもそも承認される予定自体がないという、「ドラッグロス」だ。11歳になった海智くんもまさに今、この壁に直面している。
「今飲んでいる薬は、いずれ効かなくなる可能性が高いと医師に言われた。次の薬候補を調べたところ、海外のベンチャーが開発した薬で治療できる可能性のあることがわかった。ただ、その薬は日本で治験が行われず、日本で使えるようになるかわからない」(大門さん)。どういうことか。
厚生労働省によれば、23年3月時点で欧米にて承認された薬のうち、日本では143の薬が未承認だった。しかもそのうち約6割は、日本での承認に向けた開発すら行われていなかった。
新たな薬を生み出す主体はベンチャー企業に
新たな薬を生み出す主体は今、大手製薬企業から、小規模なベンチャー企業に移っている。大門さんが知った「次の薬候補」も、売上高ゼロの米ベンチャー「デイ・ワン・バイオファーマシューティカルズ」が開発したものだ(7月にフランスの製薬企業イプセンが米国以外での商業権を獲得)。
ベンチャーにとっては、売り上げが小さな希少疾患薬でも十分なリターンとなる。米国はベンチャーへの投資資金が潤沢で、研究開発を迅速に進められる。こうした理由から、米国では希少疾患などのニッチな領域で開発に果敢に取り組む企業が増えてきた。
問題は、これらの企業が日本向けに開発を行うとは限らないということだ。その理由の1つが、日本の薬事制度だ。例えば日本では、日本人が治験に参加していることが承認条件となる。
だが、日本法人を持たないベンチャー企業が日本で治験を行うハードルは高い。大規模治験を行う余裕のない企業であれば、米国での承認をゴールとするだろう。
仮に日本で治験を行おうとしても、日本は他国と比べて医療機関の数が多く、治験の対象となる患者が点在している。複数の医療機関とのやり取りは手間であり、言語の壁もある。
日本に永遠に入ってこない可能性も
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