「パレスチナ紛争」前に取られた"ユダヤ人の奇策" 混沌化する「中東情勢」、問題の源流を読み解く
東洋経済オンライン / 2024年10月7日 20時0分
ドイツにたいする破壊活動の諜報組織をつくる一方で、ハガナのひそかな武装のためにイギリス軍の武器庫の掠奪を企てるのである。彼の部下たちはイギリス兵に変装し、上官の命令書を手に、武器庫に押入ってトラックに荷を満載して出て行った。
また武器弾薬を載せたハイファ= ポート・サイド間の列車にひそかに乗りこみ、共犯者の待つ地点で貨車の積荷を洗いざらい放り出す。ほかの連中は英国魂に燃えた士官、という触れこみで西の砂漠の戦場踏査に行き、潰走したドイツ・アフリカ軍団の遺棄した武器をもってくるのである。ハガナの火力はいちじるしく増大し、アラジの首には2000英ポンドの懸賞がかかった。
しかしハガナの武器についての叙事詩のうちで、もっとも突飛な物語は戦後にある。1945年の夏のある夕暮、テル・アヴィヴのキャフェのテラスが事件の発端だった。
新聞を走り読みしていたハイーム・スラヴィーヌは、ワシントン発の小さな報道記事に目をとめた。合衆国の軍需工場のもつ60万の製造機械が、すべて新品同様だが翌月には屑鉄として廃棄される、というのである。スラヴィーヌは立ち上って家にもどり、ダヴィド・ベン・グリオンに手紙を書いた。
「これらの機械を入手しに行くべきです」と彼は切願した。「パレスチナにひそかにはこびこみ、近代的兵器産業の基礎とするのです。歴史がユダヤ人に、二度とあたえない好機でしょう」
共産党の監獄で辛うじて生き残ったこの41歳のロシア系ユダヤ人の署名以上に、この部門で権威の高いものは考えられなかった。
パレスチナに着いたとき後進地域にはこの上なく貴重な肩書――工学士――をもっていたハイーム・スラヴィーヌは、その物理、化学についての識見によって、たちまちハガナで重要な役割を演じるようになっていた。
昼はパレスチナ最大の発電所の責任者をつとめ、夜はレホヴォットのアパルトマンの台所でTNT火薬を練り、手榴弾製造のための冶金実験を行なった。
彼がベン・グリオンに手紙を書いたのは、ヤルタ会談に出席したアメリカの高官がこの老指導者に秘密を洩らしてから、わずか数週間ののちである。ベン・グリオンの脳裡をそれいらい離れなかったことは、アラブ人との力の試煉にその民をいかに準備させるかだったから、スラヴィーヌの書簡は運命の合図、といったものだった。
ニューヨークへと向かう
ただちにニューヨークに行け、と彼はスラヴィーヌに命じた。ニューヨークでは、合衆国でもっとも有名で富裕なユダヤ人諸家族の代表者と、接触できるようにしてあった。
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