「パレスチナ紛争」前に取られた"ユダヤ人の奇策" 混沌化する「中東情勢」、問題の源流を読み解く
東洋経済オンライン / 2024年10月7日 20時0分
その人物、ルドルフ・ゾンネンボーンは2つの情熱しか人生を知らない男で、1つはシオニスムであり、もう1つは家業の化学工業である。
ベン・グリオンの依頼に応じて、彼は数年まえからアメリカのシオニストの指導者たちを集め、ゾンネンボーン・インスティテュートと当時すでに呼ばれていた一種の協議会をつくり上げていた。口のかたいことでえらばれた人びとだが、その会員は地理的産業的に見て全アメリカの代表の観を呈した。
彼らの協力を獲て、スラヴィーヌは仕事を開始した。彼はまずホテルの一室に引きこもって、雑誌「技術機械」のバック・ナンバーを読みふけった。この雑誌の存在については、たまたま新聞雑誌売場の飾窓で知ったのである。無数の挿絵を研究したあげく、彼は主要な武器の製造に必要なすべての工作機械の特徴を、暗記するまでにいたった。
それからアメリカ全土にわたっての、大巡礼旅行に乗出す。彼は英語がおそろしく下手だったから、そのために疑惑を惹くことをさけて、聾唖者でとおした。
それでも無数の工場を訪問し、圧延機、圧縮機、旋盤、その他の工作機械の全コレクションを、屑鉄の値段で買うということをやってのけたのである。ただしアメリカの法規が、彼の仕事をいちじるしく複雑なものにした。
きわめて特殊なある工作機械に関しては、こわれものとして送り出されるまえにその所有者によって解体され、使用不能にされねばならない。必要不可欠のそれらの機械を入手するために、スラヴィーヌは拾い屋の一軍団を待機させ、彼らが合衆国の主要な屑鉄置場を駆けまわって各種の部分をかき集めてきた。
ほんの小さなねじ止めでも、スラヴィーヌの司令部に送られる。彼の司令部は黒ハーレム人街のまんなか、パーク・アヴェニュー2000番地の、古いミルク・ホールだった。ここで、金銀細工師の忍耐づよさをもって、スラヴィーヌはその機械を復原していた。
この驚くべき事業の結実として彼が復原に成功した機械類は、小銃の実包5万発を毎日生産する設備と、機関銃の大量生産に必要な1500の作業を行ない得る工作機械と、88ミリ迫撃砲の砲弾のための旋盤である。屑鉄の値段で、つまり重さで買い付けたから、ぜんぶで200万ドルだった。何箇月かまえには、まだ新品のこれらの品は40倍以上の値段だった。
機械をパレスチナ側にいれるための芸当
機械をパレスチナにいれるのには、まだもう1つの芸当を演じなければならない。数も分量も巨大だから、そのまえにエフダ・アラジが用いた例の偽装戦術に訴えるというわけにゆかないのである。
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