米大統領選、脱炭素で隔たり。政策遅延の可能性も 杉野綾子・武蔵野大学准教授に展望を聞く
東洋経済オンライン / 2024年10月10日 7時20分
アメリカは世界でも屈指のエネルギー資源大国だ。その政策は世界に大きなインパクトを与える。ハリス、トランプ両大統領候補はエネルギー・環境政策でどのような主張をしているのか。アメリカの政策決定過程やエネルギー政策に詳しい、杉野綾子・武蔵野大学准教授にインタビューした。
――エネルギー・環境分野におけるハリス候補とトランプ候補の政策では、どのような違いが見られますか。
同分野でのハリス、トランプ両候補の政策の隔たりは大きい。
ハリス氏は、バイデン大統領の公約を引き継ぎ、気候変動対策やエネルギー分野での脱炭素化を推進する。他方、トランプ氏はパリ協定からの脱退、火力発電所の二酸化炭素排出規制撤廃など、化石燃料重視の姿勢を示している。
しかし、ハリス氏が勝利した場合でも、脱炭素化の大幅な進展は予想しにくい。アメリカでは、現政権下で原油や天然ガスの生産量が過去最高を記録している。ハリス氏が大統領になったとしても生産量にブレーキをかけることは困難だ。ハリス氏は、シェールガス開発で活用されているフラッキング(水圧破砕法)を禁止しないと発言している。
ハリス氏就任でも化石燃料への生産規制は困難
――トランプ氏が大統領に就任した場合はどうでしょうか。
トランプ氏は「ドリル・ベイビー・ドリル」(掘って掘って掘りまくれ!)というキャッチフレーズで、原油や天然ガスの開発をさらに推し進めようとしている。トランプ氏の場合、連邦政府の所有地での採掘規制の緩和を主張している。
とはいえ、現在、生産量の多くは私有地からのものであり、原油やガス価格が上昇すれば生産量は増加する。つまり市場メカニズムによって生産量は決まっている。
逆にハリス氏が大統領に就任した場合、連邦政府所有地での採掘範囲をなるべく広げないといったことはありうるが、私有地での生産規制に手をつけることは困難だ。現在のバイデン政権も、ロシア依存脱却を目指すヨーロッパへの支援強化と称して、石油やガスの輸出増を奨励してきた。民主党の支持母体の一つである環境保護派は反発しているが、化石燃料の増産には歯止めがかからないのが実情だ。
――他方、規制強化の動きも見られました。今年1月、バイデン政権は液化天然ガス(LNG)輸出許可の一時停止という措置を実施しました。
これは、自由貿易協定の非締結国向けLNGの輸出許可判断を、エネルギー省による審査基準の見直しが完了するまでの間、一時的に停止するというものだ。
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