米大統領選、脱炭素で隔たり。政策遅延の可能性も 杉野綾子・武蔵野大学准教授に展望を聞く
東洋経済オンライン / 2024年10月10日 7時20分
IRAではEVの生産でも税制優遇措置が導入されている。共和党は、中国産の原材料を閉め出す仕組みの強化を求めており、トランプ氏が政権についた場合にはアメリカ国内産またはUSMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)域内産比率の規制を強める可能性はある。
――原子力や水素分野での考え方の違いは。
共和党は原子力推進を打ち出している。民主党も同様だが、廃棄物処理のあり方や安全性を重視するという違いはある。ただし、両者で大きな差はない。革新的な技術に研究開発のための補助金を付けて支援する一方、導入については市場に委ねるという判断では共通している。
水素については、税制優遇措置の対象となるクリーン水素の要件をどこまで厳しくするかをめぐって、政府と産業界の間で対立がある。トランプ政権になったら、水素をめぐる規制案は仕切り直しとなる可能性もある。
――エネルギーや環境分野では、訴訟も相次いでいます。
私が注目しているのは6月28日の連邦最高裁判所判決の影響だ。同判決により、法令を解釈する行政機関の権限が縮小された。それまで効力を持っていた1984年最高裁判決では、行政機関が立法趣旨を推測しながら細則を決めることを当然の権限であるとしていた。しかし今回の判決ではそれを否定したうえで、解釈権を行使できるのは裁判所だけであるとした。
その結果、気候変動関連の規制の是非をめぐり、訴訟リスクが一段と高まっている。火力発電や自動車などを対象とした規制強化策に対して、保守派の提訴が一段と増加すると見られる。他方、環境重視派も訴訟を通じて対抗するだろう。
行政手続きが遅れ、混乱が起きる可能性もある。企業はそうしたリスクも踏まえたうえでビジネス戦略を構築していく必要がある。
岡田 広行:東洋経済 解説部コラムニスト
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