米大統領選、脱炭素で隔たり。政策遅延の可能性も 杉野綾子・武蔵野大学准教授に展望を聞く
東洋経済オンライン / 2024年10月10日 7時20分
ここ3~4年先までの建設プロジェクトについてはすでに許可が出そろっていて、大きな影響はない。許可済みのプロジェクトが稼働すれば、輸出数量は現在の年間約1億トンから倍増する見通しだ。ただし2030年頃またはそれ以降、LNG供給をタイトにするリスクとして認識すべきだ。
今後、中東カタールの増産も見込まれるため、全世界ベースで需給動向を検証する必要はあるが、アメリカからの供給が潤沢でなくなるというリスクには注意を要する。その際、この一時停止がいつまで続くのかが重要だ。トランプ氏が大統領になれば、一時停止はすみやかに撤回されると見られる。許認可のスピードが速まる可能性も高い。
EVをめぐる両者の政策の違いとは
――次に脱炭素エネルギーに関する政策動向についてお聞きします。ハリス氏とトランプ氏でどのような違いがありますか。
仮にトランプ氏が返り咲いたとしても、脱炭素化の流れ自体を止めることは困難だ。そのことを、電気自動車(EV)をめぐる政策とインフレ削減法(IRA)の動向を通じて見てみたい。
EVについて、トランプ氏は自動車会社に対する販売目標の義務づけをやめさせると公言している。しかし規制自体を廃止することは難しいと見られ、できるだけ規制を緩めるという方策を採るのではないか。とはいえ、トランプ氏はEVに関する国内のサプライチェーンを強化すること自体に否定的ではない。
トランプ氏が何を問題にしているかというと、技術の成熟度やサプライチェーンや充電器などのインフラ整備の度合いを無視して、自動車メーカーに数値目標達成を義務付けるというやり方に反対している。
ゆえに、トランプ氏が大統領になったからといってEV産業が潰されるといった心配をする必要はない。かつてトランプ氏は大統領の任期中に、EVの生産に必要なレアメタルやレアアースの自給率を高めることを目的とした戦略を打ち出している。トランプ氏が今後打ち出す方策は、燃費基準の緩和であろう。
――ハリス氏の場合はどうでしょうか。
現在の政策を継続することになるだろう。ただ、市場でEVが思うように売れなければ、数年単位で更新される燃費基準の強化ペースを緩和することになろう。長期的にEVのシェア増大の意向は変わらないが、販売実績を加味したうえで規制を見直していくことになる。
――トランプ氏勝利の場合の、IRA見直しの可能性は。
IRAはバイデン政権が脱炭素化を推進するために打ち出した看板政策だが、超党派の賛成によって可決・成立した。IRAは工場立地などを通じて全米に恩恵を及ぼしており、共和党議員の支持者が多い地域でも多数のプロジェクトが立ち上がっている。トランプ氏が返り咲いたとしても、IRAを大幅に縮小することは困難だ。IRAの成立自体は党派的な投票だったが、その後、共和党優位の地域で投資が起こるにつれて共和党議員から支持が出てきた。
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