解説者が「大谷翔平のモノマネ」でクビになった訳 米国の「キャンセルカルチャー」はどこへ向かう
東洋経済オンライン / 2024年10月11日 13時30分
これまで実に多くの「発言」が「キャンセル」の対象となってきたが、とりわけその「ジョーク」によって「キャンセル」され、職を失ったコメディアンは枚挙にいとまがなく、私自身の周囲でもその都度大きな議論を呼んだ。
近年では、その歯に衣着せぬ芸風で人気を博していたトニー・ヒンチクリフが記憶に新しい。2021年、テキサス州オースティンでのライブで、中国系のコメディアン、ペン・ダンの後を受け舞台に上がったヒンチクリフは、 「みんな、今一度会場を沸かしたこの薄汚いチビの〝チンク〟(原文はfilthy little fucking chink)に大きな拍手を」と言い放った。その後も、中華レストランの店員に扮した中国アクセントの英語を話すスキットを披露した。
ちなみに「Chink(チンク)」とは19世紀ごろから用いられた中国系を侮蔑する卑語。鉄道建設に従事することの多かった彼らが鉄を打つ音に由来しているとも言われており、日本人に対する「Jap(ジャップ)」と同様、その歴史的背景も含めて決して使用が許されない差別的な呼称である。
一部だけ切り取られて拡散されてしまった
当日、劇場で観客がこのネタを録画しており、その切り抜き動画がSNSにアップされると大きな批判が寄せられた。この時期、新型コロナウイルスをアメリカに持ち込んだという理由で、各地でアジア人に対する深刻なヘイト・クライムが発生していた。それだけに、事態を重く見た彼のエージェントWMEは、即日解雇に踏み切った。
しかし、ここで重要なのはヒンチクリフが、友人のコメディアン、ペン・ダンのネタのオチを受けて前述の発言をしたということである。ダンは、アジア人差別の現状に触れつつ、「みんな、もう少しアジア人に優しくなってくれよ。その代わり無料で追加の醬油をあげるよ(中華レストランの店員として)」と締めくくっている。
それを受けたヒンチクリフの、あえて中華系に強く当たる昨今の「愚かな白人」という像を演じてみせたジョークが、その部分だけ切り取られネット上に拡散したのである。実際、この時期多くのメディアが、「トニー・ヒンチクリフがアジア人差別ネタで炎上! エージェントから解雇される」という見出しでこの出来事を批判的に報じ、炎上は約1カ月にわたって続いた。
コメディアンのシェイン・ギリスも過去の「チンク」発言で「キャンセル」された1人だ。2019年、人気テレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』の新キャストにアナウンスされたギリス。
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