解説者が「大谷翔平のモノマネ」でクビになった訳 米国の「キャンセルカルチャー」はどこへ向かう
東洋経済オンライン / 2024年10月11日 13時30分
しかし前年に自身のポッドキャストの中で披露したコントの中で「チンク」という表現をしていたことが発覚し、1日も出演しないまま降板に追い込まれた。
「白人コメディアンのシェイン・ギリス、アジア人蔑視で『サタデー・ナイト・ライブ』を降板へ」というセンセーショナルな見出しは当然私の目にも届いた。この発言も、本人の口から発せられたものではあるものの、あくまでも「キャラ」を演じる中で用いられたものだったことは強調に値する。
文脈を無視した批判が殺到
自身で制作するポッドキャスト番組『マット&シェイン』の中で、「こんな家主は嫌だ」というテーマで即興コントを展開したギリスは、1940年代のレイシストな白人家主をカリカチュアして演じてみせる中で、この卑語を用いた。
当然、忌まわしい歴史を内包する言葉の発話が軽率だとの批判もあるが、それ以上に音声の切り抜きが独り歩きし、文脈を無視した批判が拡大したことも確かだ。
近年、こうした時代の流れの中で、少なくともコメディ・シーンにおける「キャンセル・カルチャー」は少しずつ形を変えつつある。ここ数年で、文脈を無視したジョークの切り抜きによる「キャンセル」はむしろ暴力的であり忌避されるべき、という意見が目立つようになった。
そして「アジア人蔑視発言」で「キャンセル」されたトニー・ヒンチクリフは現在、同劇場のレギュラーとして活躍するほか、新たに大手エージェントと契約を交わし、昨年大規模なアリーナ・ツアーを成功させた。
シェイン・ギリスもテレビなどでキャリアを積み重ね、昨年全米ツアーを成功させた。そしてついに今年、降板となった『サタデー・ナイト・ライブ』にキャストよりも格上とされる「ホスト(司会)」での「返り咲き」を果たした。この出演はテレビ業界の「キャンセル・カルチャー」への姿勢の転換点として注目すべき事例であろう。
昨日までセーフだった発言が明日にはアウトに
2024年現在、「キャンセル・カルチャー」は、ときに正義として、ときに脅威として、この社会に横たわっている。そして時々刻々と形を変えながら、巨大なうねりとなって人々を揺り動かしている。昨日までセーフだった発言は、明日には「キャンセル」の対象になり、明後日には賞賛されることもある。
そんなつかみどころのない価値観の狭間で私たちコメディアンはジョークを作る。そしてそこには、「これがアウト」で「これはセーフ」という明確なルールブックは存在しない。あえて言うのであれば「誰が、どの文脈で、何を、どのように言うのか」に尽きるが、それさえ無視され批判にさらされる世でもある。
「表現の自由」に普遍性も絶対性も存在しないからこそ、時代の声を読む「正しさ」が必要なのかもしれない。
サク・ヤナガワ:スタンダップコメディアン
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