母に「恥ずかしくて…」と言わせてしまった僕の罪 燃え殻「疲れた夜に寄り添う」日々の記憶と家族
東洋経済オンライン / 2024年10月17日 18時0分
茶髪と黒髪が交じったお姉さんが、一通りお好み焼きを作り終え、椅子に座って煙草をふかしていた。「ふー、いる?」と煙草の箱を出して、僕をからかう。僕は思わず足が止まってしまう。「お好み、どうよ?」と笑顔で言う彼女。「すみません、いまお金なくて……」と返すと、「そう」とそっけない。そして、また彼女は煙草をふかす。僕はそのあと神社まで行って、とぼとぼ帰宅した。戻ってきた僕に、母は「夕飯できてるわよ」とだけ言った。
祭りの終わり
次の日、小遣いを持って、もう一度祭りに向かうと、昨日で終わりだったようで、はっぴを着た大人たちが、提灯などを外している真っ最中だった。道もキレイに掃除がされていて、あれだけあった屋台は跡形もなく消えていた。
茶髪と黒髪が交じった彼女のお好み焼きの屋台も、もちろん跡形もない。きっと僕の知らないどこかの町の祭りで、今日も一通りお好み焼きを作り終えたら、また煙草をふかしているに違いない。彼女からあのとき一本煙草をもらって、そのままどこか知らない土地まで、一緒について行きたかった。
祭りが終わって、いつもの町がいつも通りに戻っていく様子を見ながら、そんなことを考えていた。
母にとっての人生初のライブ体験
母の病気が見つかったのは、いまから六年前のことだ。緊急で行った大手術のあと、医師が母から摘出したモノを、僕たち家族に見せてくれた。それを見たとき、大袈裟でなく卒倒しそうになった。身体からこんなに多くを取ってしまって、人間は生きられるのだろうかと思ったほど、その量は多かった。酸素マスクをした母のもとに通されたのは、そのあとすぐのことだ。その日は冬で、病院の窓のサッシが、北風でカタカタと音を立てていた。母はベッドに横たわり、スーハースーハーと小さく息をしている。「お母さん」と妹が語りかけるが、目をつむった母からの返事はない。布団をかけられた母の身体が、僕の記憶よりも薄く感じた。
父は無言のまま、涙を拭いている。管に繫(つな)がれた母の右手を、僕はそっとさすってみる。母の手が冷たい。機械音がずっと鳴っていて、見たことのない数字が、画面の中で増えたり減ったりしていた。僕は母の冷たい手を手繰るように握ってみた。すると母はゆっくり片方ずつ目を開ける。
「お母さん」僕は母に語りかける。
酸素マスクをした母は、ほんのすこし口元を開いたあと、僕の手を信じられないくらい強く握った。「しっかりしなさい」と言われた気がした。
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