母に「恥ずかしくて…」と言わせてしまった僕の罪 燃え殻「疲れた夜に寄り添う」日々の記憶と家族
東洋経済オンライン / 2024年10月17日 18時0分
術後、容態は安定し、春になると一時退院することまでできた。母は、医師も驚くほどの回復を見せたが、身体にはまだ癌は残ったままだった。しかし高齢でもあり、その進行は遅い。放射線治療や外科手術を何度かしながら、自宅療養が現在もつづいている。
母は、僕がナビゲーターを務めるラジオ番組を、欠かさず聴いてくれていた。必ず感想もメールで送ってくれる。あるとき感想をメールではなく、電話で伝えてきたことがあった。それは『BE:FIRST』のLEOくんがゲストの回だった。「あの子はいい子ね。お母さんわかるの」と、まるで親戚の子か孫でも愛しむかのように熱く語っていた。しばらくして、LEOくんがライブに僕を誘ってくれたとき、たまたま母の話をしたところ、「もしお母さまの体調がよろしければ、ライブに来てください」と母の分まで席を取ってくれた。母にとって人生初のライブ体験。それが『BE:FIRST』のライブになった。
「すごいね、すごいね」
当日、関係者席に座った僕の横で、母はバッグの中からプラスチックの弁当箱を取り出す。中には大根を蜂蜜漬けにしたものが入っていた。母が蓋を開けると、関係者席にぷ〜んと漬物のような匂いが漂う。割り箸で、漬けられた大根をもぐもぐと食べだす母。
「それはなに?」と母に問うと、「咳が出たらLEOくんに失礼だから……」と言う。「音が大きいから、そんなこと心配しなくても大丈夫だよ」。僕は呆(あき)れながら説得するが、「周りの方々にも失礼だから……」と、すでに十分失礼な匂いをプンプン振り撒きながら、母は蜂蜜漬けされた大根を食べつづけた。
ライブが始まると、最初のほうだけは、音の大きさや演出の火花などに怯えていたが、その後はずっと「すごいね、すごいね」を繰り返しながら、最後まで少女のように楽しんでいた。若い人たちの拍手に負けないくらいの拍手をしている姿を見たとき、思わず目頭が熱くなる。そんな僕に気づいた母から、「しっかりしなさい」となにを励まされているのかわからない励ましを受けた。
あの冬の日。横浜郊外の病院で、ベッドに寝ていた母のことを、僕は思い出していた。あの日、母の手はとても冷たかった。母の冷たい手を、僕は手繰るように握った。すると母はゆっくり片方ずつ目を開ける。
『BE:FIRST』を一瞬も逃すまいと見つめている母がもう一度、「すごいね、すごいね」と言いながら、大きく拍手を繰り返していた。
燃え殻:作家
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