終末期の母を「死なさずにすんだ」息子の冷静判断 「最期は家」を叶える前に考えたい治療の可能性
東洋経済オンライン / 2024年10月20日 11時30分
「最期はこう過ごしたい」という希望が独り歩きし、“よりよく生きるために必要”な治療を受ける機会を逃すケースがある――。もしものときに望む医療やケアについて、本人の希望が最優先されるあまり、医療現場や家族の間で混乱が起きる場面が見られる。
これまで1000人を超える患者を在宅で看取り、「最期は家で迎えたい」という患者の希望を在宅医として叶えてきた中村明澄医師(向日葵クリニック院長)の連載。今回は、母親の希望を何とか叶えたいと奮闘するあまり、優先順位を見失ってしまった息子のケースを紹介する。
早く帰ってペットに会いたい
大腸がんの末期で、自宅で生活しながら抗がん剤治療を続けていたAさん(女性、63)。もともと「できる限り家で過ごしたい」「延命治療はしない」という意向がはっきりしている患者さんで、自宅でペットと過ごす時間をとても大切にしていました。
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あるとき、Aさんはがんが骨に転移した影響で腰痛が悪化し、緊急入院することに。そこでもAさんは「早く帰って、レオンちゃん(ペットの名前)に会いたい」としきりに訴えていましたが、入院から2日後、Aさんの体調に異変が生じます。
痙攣(けいれん)が起こり、意識が低下したのです。翌日には発熱も見られたことから、感染症の一種である胆管炎を引き起こしている可能性が疑われ、抗菌薬の点滴が始まりました。
いつ状況が悪化するかわからない。主治医からも「予断を許さない状態。このまま亡くなるかもしれない」と告げられます。
このとき、母親の「家に帰りたい」という意向を聞いていた息子さんは、母親を家に連れて帰ることを強く希望しました。「このまま病院で亡くなったら後悔する」と言うのです。これについて、Aさん本人の意向を確かめたくても、意識が朦朧として確認できない状態。息子さんが判断するしかない状況でした。
息子さんからすれば、「家で過ごしたい」という母親の希望を叶えてあげたいという一心だったのでしょう。そこで緊急に在宅療養の体制を組むことになり、筆者が在宅医として関わりました。
「希望通り」がいいとは限らない?
「本人の希望を叶えてあげたい」という気持ちは、もちろん大切にすべきものです。一方で、Aさんはがんの終末期ですが、今問題になっている胆管炎は感染症であり、治療したら治る可能性があるものです。
終末期の緩和ケアについては、“病院と自宅で特に差がない”ことはこれまでも何度かお伝えしてきましたが、こうした急性期の病気は、検査や治療が迅速に行える病院で治療を受けたほうがよく、そのようにお勧めする場合もあります。
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