嫌われ養鶏所→人気観光地に「たまご街道」の軌跡 地域住民と共生するためにやってきたこと
東洋経済オンライン / 2024年10月20日 12時30分
同じような努力は昔の味たまご農場でも続けられている。前述のハンバーガー屋では学生向けに通常料金の半額の出世払い価格が設定されている。この地で長く事業を続けられてきたことの恩返しをしたいという思いからで、赤字でも続けているが、根底には養鶏を知ってもらいたいという思いもあることだろう。
また、田中さんは卵を買ってもらったお客さんに向けて年間300通もの手紙を書き、直売店の店頭には手作りの新聞が置かれている。これは養鶏業に理解を求めると同時に、昔の味たまごのファンを育てるためのもの。このエリアの養鶏場はそれぞれに飼料に工夫を凝らすなど品質向上に努めており、その中で選ばれるためには養鶏場のキャラを作っていく必要があると思っているそうだ。
各養鶏場がそれぞれ個別に模索を重ねているわけだが、残念ながら限界もある。確かに以前に比べれば臭いは少なくなり、ハエも発生しにくくはなったが、いくら努力してもゼロにはできない。生き物を飼育している以上、無臭、無音などはありえず、まだまだ暴言にさらされている事業者もある。養鶏場移転を信じた人たちのうちには、いまだに移転を願っている人も少なくない。
そこで、この土地に養鶏場を残し、続けていくために事業者が連携して情報を発信し、理解を得る努力をわかりやすく形にした旗印がたまご街道である。
「10年ほど前、存続のためにみんなで集まり、共同の旗を揚げようと1軒ずつ回って声をかけ、麻溝畜産会を結成しました。全養鶏場でたまご街道というのぼりを立てることにしました」と当時を振り返るのはコトブキ園の角田隆洋さん。
コトブキ園は海軍将校だった角田さんの祖父が創業した。当初は横浜に養鶏場があり、祖父は東神奈川にあった闇市にリヤカーを押して卵を売りに行っていたそうだ。
「戦争から戻って来た時には家は焼失し、何もなくなっていました。そんな中、体調を壊した祖父は親戚からもらった1羽の鶏が生む卵を食べて健康を回復。食料不足の当時、卵は貴重なたんぱく源でしたから、祖父は卵で日本を再興しようと養鶏場を始めました。そんな話を聞いて育った私としては1軒では残れない養鶏場を7軒まとまることでなんとか存続させたいと考えています」
「一定の目標達成→終わり」ではない
活動はたまご街道というのぼりをそれぞれの養鶏場が立てるというだけだが、効果は大きく、事業者がまとまったことで認知度は大きくアップした。最近では近隣の人はもちろん、市外の人の来訪も増え、「やめないでね」と言われることも。
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