嫌われ養鶏所→人気観光地に「たまご街道」の軌跡 地域住民と共生するためにやってきたこと
東洋経済オンライン / 2024年10月20日 12時30分
行政からの支援も受けられるようになり、グルメ、旅行系のメディアなどにも取り上げられるようになった。一部の養鶏場からはせっかくまとまった強みを生かして卵の食べ比べのような、広く関心を持たれる事業ができないかという声もある。
一定の目的は達したわけだが、それで終わりではない。新しい住民は以前よりも地域を理解したうえで入ってくる人が増え、クレームは減少傾向にあるそうだが全体でみるとゼロになったわけではない。臭い、ハエなどの問題もなくなることはない。
そうした不安要因がある限り、養鶏場存続のためにたまご街道ののぼりは掲げ続けなくてはいけないのである。
地元の不安要因以外にも悩ましい問題がある。そのうちの1つが餌代の高騰だ。日本の養鶏業が必要とする飼料の95%はアメリカから輸入されており、このところの為替の変動で餌代は2倍に。それでも店頭価格が2倍までにはなっていないのは供給を安定させるために国が補助金を出しているからである。
「飼料を自前で確保できているアメリカでの卵の価格は、ニューヨークのスーパーの一般的なもので1ダース5ドル、オーガニックな品で8~9ドル。対して日本はと考えると補助金の効果がわかりますが、それが枯渇したらどうなるか。食料自給率という点からも疑問です。給料の低迷、物価高騰から卵の消費は落ちてもいます」と角田さん。
卵1000キロを生産するのに出る1000キロの鶏糞を今後どうやって処理していくかも問題だ。以前は近郊の農家に堆肥として使ってもらっていたが、都市近郊では、農家は減少傾向にある。鶏糞が処理できなければ卵の生産を減らさざるをえないかもしれない。
「物価の優等生」の陰には生産者の苦労
物価の優等生と言われ、安価で美味しい身近な食品として愛されてきた卵だが、その存在を支えるためには見えないところで生産者の苦労があり、現場、制度にはさまざまな矛盾が生じつつある。これからも卵が毎朝の食卓に上り続けるよう、養鶏業のこれからに関心を寄せるようにしたい。
最後にたまご街道を訪れてみようと思った方に。たまご街道で検索をかけると相模原市観光協会が作成した案内図が出てくる。エリア自体が駅から離れているので車で行くのが便利だ。
前述のカフェのほか、コトブキ園が経営する「農場の家」でもスイーツを扱っており、個人的には卵の殻に入ったクレームブリュレが超おススメ。養鶏場ごとに卵の色、黄身の色が異なるので何軒かで買って食べ比べしてみるのも楽しい。ちなみに卵の殻の色の違いは鶏の種類の違い、黄身の色の違いは飼料の違いによるもので、茶色い鶏は茶色い卵、白い鶏は白い卵を産むそうだ。
中川 寛子:東京情報堂代表
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