倫理資本主義の下でビジネスは成り立つのか? エシックス(倫理)と資本主義を考える(2)
東洋経済オンライン / 2024年10月23日 10時40分
創造的破壊は学習と呼んでもよいのでしょう。学習の定義は、ある問題を別の問題に置き換えることです。学習は問題の最終的な解決策ではなく、学んでいくうちにまた別の問題を解く必要が出てきます。近代は学習と創造的破壊のプロセスと言えます。18世紀と19世紀の資本主義は工場の世界観でしたが、そうした過去の工場としての資本主義を破壊する。それが創造的破壊です。
名和:資本家が工場を設立して商業を発達させた時代の資本主義の後に、それらの旧来秩序を創造的に破壊して、学習を通じた動的な資本主義が主流となる。そこでの判断軸として改めて問われるのが倫理です。だから、「倫理資本主義の時代」と呼ぶのですね。
真の利益は社会善を増進する
名和:先ほど利益の話がありましたが、オックスフォード大学のコリン・メイヤー教授は利益の概念を再定義しなければならないと言います。「真の利益(just profit)」についてどう考えますか。
ガブリエル:メイヤー教授は『Capitalism and Crises(資本主義と危機)』の冒頭で、profitの語源のラテン語には「自分の存在にとって有益なもの」という意味があったことに言及しています。
一方で、単なる「幻想利益(illusory profit)」もあります。これは手っ取り早く儲けを出すことで、株式やマネーなどの資産として測定できます。そうやって所有するものは非常に不安定です。
たとえば、暗号通貨取引所を創設したサム・バンクマン=フリードは、犯罪的な手口で巨額の富を手にしましたが、今は投獄されています。彼の儲け方は利益創出の条件に違反していたから、幻想利益に終わったのです。
真の利益とは、金持ちになったら、自分の会社を通じて富を分配したり、蓄積した富を社会善に用いることです。蓄積するときにも、持続可能な方法か、それ以上の方法をとる。日本では再生方法について興味深い議論がなされていますよね。
悪い利益の考え方もある世界
名和:単に持続可能なだけでなく、プラスアルファの要素を持たせるのですね。
ガブリエル:そうです。単にものがあり続けるのではなく、進歩的な動きの中でスパイラル状に高めていく。それが真の利益です。
負の外部性については有名な議論がありますが、私は前向きに捉えて、正の外部性を内包させたいと思っています。企業が生み出す負の付随的損害を測定し、バランスシートに反映させるだけでは不十分です。
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