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「お前のことがムカつく」友人のメールに思うこと 燃え殻「迷惑をかけたあの日のこと」と彼の記憶

東洋経済オンライン / 2024年10月24日 15時0分

根気よく傍らに誰かがいてくれれば、その誰かになれたなら、人生はどうにかやり過ごせることを、僕はもう知っている(画像:be_photo/PIXTA)

日常をやり過ごすために必要なのは、映画館の暗闇の中のような絶対的な安心感。ひとりの時間、寄り道と空想、たしかな名前の付いていないあれやこれや。作家・燃え殻が描く、疲れた夜にそっと寄り添う30篇とちょっとのエッセイ集『明けないで夜』より、友人のこと。

恩を返すときがやっときた

知人のデザイナーの男性が半年前に心を病んでしまい、仕事を休職し、「もう本当に死にたい」という趣旨のメッセージを一通送ってきた。「とにかく少し休んでください」と僕は返したが、そのあともメッセージは何通も送られてくる。そして内容はどんどん変化していく。次第に、「お前がうらやましい」という内容になり、一番最近届いたものでは、「お前のことがムカつく」にまで行き着いてしまった。

一見、派手派手しい仕事に僕が就いているので、休職している彼からしたら、眩しく見えてしまったのかもしれない。実際のところ僕の仕事は、ひとりPC画面に向かって、ぶつぶつと言いながら、来る日も来る日もキーボードを打ちつづける仕事で、気づくと誰とも話さず一日が終わることもざらだ。前職はテレビの裏方だったので、とにかく会議や打ち合わせ、クライアントからの呼び出しなども含めて、いまよりもよっぽど派手派手しくいろいろな人に、日々会っていた。

彼が送ってくる文面だけでも、症状が改善されていないことは明白だったので、僕は一度電話をすることにした。ワンコールで出た彼は電話口で、「ごめん、ごめん」を繰り返す。「一旦お茶でもしませんか?」と僕は伝えた。

数ヶ月ぶりに外に出たという彼は、無精髭ではあったが、身なりはきちんとしていて、顔色も悪くない。一緒に働いていたときと、さほど変わらない印象だった。僕に送ったメッセージについて、そのときも彼は一生懸命に謝っていたが、正直僕は気にしていなかった。そんなメッセージの一つや二つでは到底埋まらないほどの迷惑を、僕は彼にかけたことが過去にあったからだ。

とある案件で、一緒に仕事をすることになっていたのに、ギリギリになって僕がドタキャンをしてしまった。そのとき僕は、言葉がうまく出てこないほど、精神的に参ってしまい、一日の大半の時間を布団の中で過ごした。しばらく電車に乗ることもできなくなった。仕事をするなどもってのほかで、貯金額だけがどんどん減っていく。食事もほとんど口にせず、アイスばかりを食べていた。そのときに二日から三日に一度、コンビニの弁当と飲み物を買って、様子を窺いに来てくれたのが彼だった。

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