競争社会の優勝劣敗は「自己責任」というフェイク 責任とは「失敗の後始末をすること」ではない
東洋経済オンライン / 2024年10月28日 13時0分
どうしてこういうすれ違いが起こるかと言うと、私たちの社会の多くの人間が、責任を「失敗したことの後始末や尻拭い」と脳内翻訳しているからです。
裏を返せば、「失敗することを死ぬほど恐れるように教育されたこと」「失敗をした後のセカンドチャンスを、ほとんど用意してくれない社会で生きてきた」ということです。
「間違えるとアホと思われる」というおびえ
子どもの頃から正解を見つけてさっと先生に示し、決して間違えない、間違えたら「マジ、ヲワタ」と即断する、ノートの誤答はすべて消しゴムで消す、みたいなことを繰り返してきた人たちは、責任の本義(己の判断と行動とその結果を結びつけて考えること) を「失敗したダメな自分がそう烙印を押されて、それにじっと耐えること」と、独自の解釈をしてふさぎ込むのです。
だから、あれこれと事前に危険回避のための知恵を使います。「答えを間違えるとアホだと思われるんじゃないかというおびえ」を小・中・高と12年間育て続けた大量の日本人は、PTAのやってきたもう必要のない習慣(「運動会の招待席へのお茶出しのシフト表をエクセルでつくってミーティングする」など)を「やめましょう」と言われただけで、何かのスイッチが入ります。
そして、「やめた結果起こる心配なこと(文句を言われる、批判される、勝手なことをしたと指摘される)」の場面を1秒くらいの間に先回りして脳内に浮かべて、「責任取れませんから」と言って、なおも無駄なミーティングのために時間をつくり、夕方の家事育児の時間を無理してズラしたりするのです。「そんなのやめましょう」と言い出しっぺになることを避けるコストです。
競争社会での敗北は誰の責任か?
この「失敗は許されず、それが回避できなかったときは、黙って耐えてやり過ごす」という心の習慣は、PTAの現場を超えた社会生活においても同じように展開されます。世紀転換後、規制緩和と競争の推奨、無駄を省いて効率よく優勝劣敗市場を生き延びようとする「ネオ・リベ」の風潮は、こういう過剰な自己卑下を「自己責任」という言葉で正当化させました。
各々が自分の才覚と努力とをもって競争社会に挑んだ結果だし、それは市場(アダム・スミスの言う「神の見えざる手」)が出した答えだから、敗北は自己責任であるという説明です。
でも、これは私たちの社会を、今日著しく萎縮させているよろしくない「フェイク」なので、やや強めに言っておきましょう。
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