「雑談のない職場」が致命的にダメである納得理由 環境を変えるだけでイノベーションが生まれる
東洋経済オンライン / 2024年10月29日 10時0分
画期的なアイデアが生まれるかどうかは、協調、近接度、人々の集まり、多様な視点……そして思わぬ発見や幸運(セレンディピティ)にかかっている。
これらの条件はどれも単純に義務化したり押しつけたりすることはできない。それでも、相互のつながりのための空間と互いのための空間を用意すれば整えることができる。
伝説となっている研究所の環境
こうした空間がどれほど重要であるかは、伝説となっているケンブリッジ大学のイギリス医学研究局の分子生物学研究所によって実証されている。この研究所の創立については、今一度語られるべきだろう。
1950年代に研究所の建設計画に携わった設計者たちは、平等の精神が重んじられる戦後の世界では共同レストランはもはや時代遅れだと考えた。
しかし、研究所を創立した生化学者のマックス・ペルーツの考えは違った。彼は共同レストランの設置を主張したばかりでなく、そこでは(タダでなくとも)上質で安価な食事を提供すべきだと要求した。
この条件のどちらが欠けても、研究者たちはサンドウィッチを自分の机の上で食べて、互いに話すことがないだろうというのだった。
彼の見解の正しさはある明確な統計によって確認された。最新のデータによれば、この研究所は27人のノーベル賞受賞者を輩出している。
言い換えれば、イギリス医学研究局の分子生物学研究所は大学ほどの研究者を抱えていないにもかかわらず、ノーベル賞受賞者の数において世界でトップ25の大学と肩を並べているのだ。
そのレストランでの幸運な出会いがあったために、非常に効果の高い新型コロナウイルス感染症のワクチンが、それまでのmRNA研究のおかげであれほどのスピードで開発されたのだ。
ワクチンの一種を共同で開発したカタリン・カリコとドリュー・ワイスマン〔訳注 両者は2023年のノーベル生理学・医学賞を受賞した〕は、職場のコピー機の順番を待っていてたまたま出会ったという。
何気ない会話がイノベーションを生む
共有空間で起きる何気ない会話の重要性は、ハーバード大学医学部の研究シンポジウムで参加者を対象に行われた実験によって証明された。
実験の開始直後、研究者たちは異なる部屋に無作為に分けられ、他の参加者と90分の非構造化ブレインストーミング〔訳注 制約や規則のないブレインストーミング〕に参加するよう求められた。
実験の前に研究者どうしが協力する確率は低かったが、同じ部屋でこれほど短い時間を一緒に過ごしただけで、偶然出会った2人がのちに共同研究の補助金申請を提出する確率が70%近く増えた。共有空間は生産性の高い空間なのだ。
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