障害者への合理的配慮の義務化で何が変わるのか 「障害者差別解消法」の改正を怖がる必要はない
東洋経済オンライン / 2024年10月30日 11時0分
つまり、障害者から席を用意するという配慮を求められた店は、過重な負担なしにそれに応えることができたと考えられます。たとえ店側に悪意がなかったとしても、最悪の場合は店が法的責任を問われる可能性も否定できません。
問題は「過重な負担」の範囲です。これは少し複雑で、以下の要素などを考慮して、具体的な場面や状況に応じ、総合的かつ客観的に判断するとされています。
●事務や事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
●実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
●費用・負担の程度
●事務・事業規模
●財政・財務状況
本当は難しくない「合理的配慮」
法改正を機に多くの企業から、新たな投資が必要になるのではとか、トラブルが増えるのではといった相談が、私たちのもとへ寄せられるようになりました。そんなとき、私は「できる・できない」のどちらかで考えるのではなく、建設的に対話することの大切さを伝えています。
相手の話を聞き、こちらの事情も伝え、対応可能な範囲で配慮を提供するのは、それほど難しいことではありません。たとえ相手の要望に100%応えられない場合でも、「できません」と言って対話を打ち切るのではなく、代替案を提示することはできるはずです。
たとえば、豪華な夕食バイキングが売りのホテルに、パニック障害のあるお子さんとその家族が泊まったとしましょう。夕食を楽しみにしていたが、思いのほか宿泊客が多かったことから次第にお子さんが落ち着きを失い、このままだと食事中にパニックを起こしかねない。そう考えた親御さんは、部屋食を用意してもらえないかとホテルに頼みました。
しかし、ホテルの厨房はバイキング食を提供するのに手一杯で、特別な食事を用意する余裕はありません。そこでホテル側は事情を説明したうえで、普段は認めていないバイキング食の部屋への持ち込みを提案することにします。
親御さんはバイキング会場からスマートフォンで料理の動画を送り、お子さんが食べたい料理を皿にとって、ホテルが用意したワゴンで部屋に運ぶ。何度か往復して、最後にデザートで締めくくる頃には、お子さんの気持ちもだいぶ落ち着いて、楽しい旅行にすることができた──こんなケースがあれば、それはまさしく建設的な対話といえます。
このケースでは、ホテル側はワゴンを提供しただけで、人員も追加の費用もかかっていません。こうした合理的配慮ならば、組織全体で大がかりに取り組むことが難しい場合でも、現場の判断で臨機応変に対応できるはずです。だから、必要以上に不安を感じ、身構えないでほしい。それが、改正障害者差別解消法の施行に際し、私が切に願うことです。
先進国で高まる法的リスク
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