障害者への合理的配慮の義務化で何が変わるのか 「障害者差別解消法」の改正を怖がる必要はない
東洋経済オンライン / 2024年10月30日 11時0分
もちろん、そんなことは実際には不可能で、訴訟件数そのものがアメリカに比べて圧倒的に少ないために、問題が顕在化しづらい状況にあると思われます。
障害者対応に企業の大小は関係ない
状況は確実に変わりつつあります。まず、アメリカにおけるADA関連の訴訟件数は、2013年からの8年間で3.2倍に急増しました。
ここで思い出していただきたいのが、2000年以降、企業経営に関するさまざまな制度やルールがアメリカで生まれ、次いで日本でもビジネスに大きな影響を与えてきたことです。コーポレートガバナンスや情報開示をめぐって次々と誕生するルールに頭を悩ませ、対応に追われた経験を持つ方も少なくないはずです。
未上場の中小企業だから関係ない、とも言っていられません。大企業は近年、取引先の人権侵害リスクに神経を尖らせています。また、中小・零細企業の製品もECサイトを介して国境を越えて販売されています。アクセシビリティの問題がてんこ盛りのサイトを、今この瞬間に世界のどこで誰が見ているかがわからないのです。
つまり、未上場であっても、国内のみで事業を展開していても、障害者への差別解消をめぐる世界的な潮流と無縁ではいられないことになります。ここに改正障害者差別解消法の施行が加わり、一気に法的リスクが高まったことは想像に難くありません。
人権問題に対応できない企業は苦しい立場に
すでにその兆しは日本国内でも現れています。2021年には大手スポーツジムが、会員であった車いすユーザーの入店を拒否したうえ、本人の同意なしに除名したとして、裁判で慰謝料の支払いを命じられました。
同じく2021年、聴覚障害者のアトラクション利用を拒否したアミューズメントパークは、公式に謝罪する事態に追い込まれています。
障害者対応を社会貢献の一つとして捉える時代に終止符が打たれました。「誰一人取り残さない」というフレーズがすっかり浸透し、SDGsへの取り組みが官民挙げて強化される中、人権問題に対応できない企業は苦しい立場に追い込まれる可能性があります。サプライチェーン上の労働環境や環境被害に目を光らせる投資家や消費者が、目の前で行われている障害者差別を見逃すとは考えられません。
企業はこれから、法令を遵守するだけではなく、明確にルール化されていないものについても、できる限り社会の要請に応えなければ、持続的な成長を遂げるのは難しいでしょう。
垣内 俊哉:株式会社ミライロ代表取締役社長
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