障害者への合理的配慮の義務化で何が変わるのか 「障害者差別解消法」の改正を怖がる必要はない
東洋経済オンライン / 2024年10月30日 11時0分
過度に不安を感じる必要はないとお伝えしましたが、正しく備える必要はあります。そのためには、障害者への不適切な対応がどのような事態を招くのかを知るべきでしょう。
そこでまず、2つの事例を紹介します。
●2019年、世界的なアーティストであるビヨンセさんが所有するマネジメント会社、パークウッド・エンターテインメントが、視覚障害者のファンから提訴された。公式サイト「beyonce.com」の多くのコンテンツが画像で構成され、画像の情報を説明する代替テキストも設定されていなかった。読み上げ機能を使っても、必要な情報にアクセスできないことが争点となった。人権問題への関心が高いことでも知られるアーティストだけに、この出来事は世界中で驚きをもって迎えられた。
●2011年、カリフォルニア州バークレーに本拠を置く非営利の法律事務所DRA(Disability Rights Advocates)は、カリフォルニア州にある2カ所の映画館を提訴した。聴覚障害者のための情報保障手段が不十分だというのがその理由で、座席に小さな画面を付けて字幕を表示するシステムを導入するように求めた。
注目すべきは、どちらのケースも社会的な批判にさらされただけでなく、法律に違反しているということで訴えられている点です。その根拠となるのが、世界初の障害者差別禁止法として1990年にアメリカで成立したADA(障害を持つアメリカ人法)です。この法律によって、アメリカ、そして世界の障害者対応を取り巻く状況は大きく転換しました。
ほとんどの先進国において、「beyonce.com」で見受けられたウェブアクセシビリティの課題は、企業にとって深刻なリスクとなります。しかし日本では、まだあまり認知されていません。
また、映画館における聴覚補助システムは、アプリの導入によって広がりましたが、視覚障害者向けの対応は進んでいません。上映するすべての映画に音声ガイドをつけているのは、国内では私の知る限り、東京都北区にあるシネマ・チュプキ・タバタ、ただ1カ所です。
日本でこうした取り組みが進んでいない要因は、前述したように民間企業において、合理的配慮の提供が努力義務にとどまっていたためでしょう。法に触れない以上、優先順位がどうしても低くなってしまうのは仕方のないことかもしれません。
他に要因として考えられるのが、アメリカと日本では訴訟の脅威がまるで違うことです。アメリカの弁護士数は132万人で、弁護士1人当たりの国民数は251人。日本の弁護士1人当たりの国民数はおよそ2850人なので、単純計算すると、日本では1人の弁護士がアメリカの倍近い事案を担当することになってしまいます。
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