松下幸之助の成功の根源にあった独自の死生観 「命をかける」の「命」に対する見方が一般とは異なる
東洋経済オンライン / 2024年11月1日 15時0分
以上は事業部長のケースだが、幸之助は、従業員であっても、ときに命をかけるほどの厳しさが求められるという。しかし、そのような厳しさは、世の中のために意義あることを実践することに伴う苦しさや辛さであって、そこを超えたところに真の生きがいが見いだされるとする。この点がよくわかる文例を、少し長いが、2つほど紹介しよう。
「きびしさの中に人間の本当の生き方があるのではないかとも思うのです。お互いが、自分の仕事に命をかける、命をかけて仕事をする、そういう心境を味わっていくところに、自分の使命、生きがいというものを感じるのではないかと思うのです。
みなさんが今、産業人の1人として立っておられるとするなら、みなさんはその産業人の1人として命をかけた仕事をしておられるでしょうか。ただその日その日を無為にすごしている、単なる労働をしているというのではなく、自分の仕事に産業人として命をかけるのだという考えをもっているかどうか、ということです。私はみなさんはおもちになっていると思います。が、それをさらに徹底してもち、そこに生きがいを感じることが大切だと思うのです」
「われわれは日常、何気なく“命がけ”という言葉を口にするようであるが、とにかく何か事をなすに際しては、いわゆる命をかけるような真剣さというか、精魂こめた態度こそ必要なのではなかろうか。
しかし、これほど言うは易くして行うに難いことはないかも知れない。けれども、それがいかにささいな事であるにしろ、このような態度をもってのぞむということは、必要であると思う。このような心構えで事にのぞむという考え方が必要だと思うのである。
これは、いいかえると人間として生きる以上、やはり何か1つくらいは、命をかけるほどの真剣さで打ち込むものがなければ、ある意味では、その人の人生は非常に淋しいものであるといえるのではなかろうか。
従って、たとえばサラリーマンとして会社に勤務する以上は、やはりみずからに与えられた仕事の意義をわきまえ、そこにたゆみなき責任感を抱いて、打ち込むことが望ましいと思うのである。
このような態度から、私はおのずとその人の道がひらけてこようかと思う。これは結局は仕事の成果となってあらわれ、会社の発展となり、ひいてはわが国の繁栄へと連なってゆくと思うのである」
以上の2つの引用文について、昭和の古い価値観を述べているに過ぎないと、批判的にとらえる向きもあるだろう。かつての「モーレツ社員」や「企業戦士」の姿が思い浮かばれる。
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