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夫婦揃って「退職→1年半の旅」に出た人に起きた事 「人生を効率よく歩んでいかねば」の焦りに直面し…

東洋経済オンライン / 2024年11月3日 9時0分

それまで自分が当たり前だと思っていた、『家賃を払うために働くこと』や『懸命に働いて成長すること』が、実は当たり前じゃないんだと気づきました」(拓哉さん)

他にも、マラリアの研究をしながら、世界各地の研究所を転々としつつ旅をしているイタリア人女性、戦後パラグアイのイグアス地区に移住し、世界トップクラスの大豆農業を発展させた日本人たち、賃金が7倍であるカナダに家族で出稼ぎに来ていたメキシコ人たち……さまざまな出会いが、2人の価値観を揺さぶっていった。

心の体質改善

旅をはじめて1年ほど経ったある日。2人はボリビアからパラグアイに向かうバスに揺られていた。ガタガタと揺れる車内で、拓哉さんは車窓の向こうで流れる景色を眺めながら、去年の今頃のことを思い返していた。「なんで俺、あんな頑張ってたんだろうなあ」と。

「去年の今頃は、周囲からのプレッシャーを感じながら盲目的に成長を目指して、その結果、燃え尽きたような感覚を感じていました。でも、『仮に仕事がうまくいかなかったとしても、そんなに大したことではなかったな』と思えたんです」(拓哉さん)

日本での現実から距離を置いた日々を過ごすうちに、拓哉さんと詩歩さんに、少しずつ変化が訪れていた。拓哉さんはその変化を、「心の体質改善」という言葉で説明する。

「日本にいたときは、上司からの評価や世間体など、『人からどう思われるか』を気にしすぎていた。それによって、楽しさや喜びといった感覚を押さえつけていたのだと思います。でも、旅をしているときは人の目を気にせずにいることができた。そしたら、純粋に楽しさや喜びを感じることができるようになってきたんです。『心が体質改善できた』という感覚でした」(拓哉さん)

詩歩さんも、同じような変化を感じていた。

「私も、日本にいたときは周りからの見え方を気にしていました。でも、旅のなかでやりたいことをやっている人とたくさん出会い、『もっと自分を大切にしてもいいのかもしれない』と思うようになったんです」(詩歩さん)

「人からどう思われるか」という思考から、少しずつ解放されていった2人のなかで、気づけば「帰国して、こういうことをしたい」という会話が増えていった。

もう十分、心の体質改善はできた。そろそろ日本に帰って、お互いにやりたいことをしよう――。2人は旅に区切りをつけることにした。

1年半の旅で、訪問した国は15カ国。タイ、ベトナム、フィリピン、シンガポールといった東南アジアの国々と、メキシコ、グアテマラ、アルゼンチン、チリ、ボリビア、パラグアイ、ブラジル、ペルー、コロンビアといった南米の国。そして北米のカナダ、アメリカだった。

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