夫婦揃って「退職→1年半の旅」に出た人に起きた事 「人生を効率よく歩んでいかねば」の焦りに直面し…
東洋経済オンライン / 2024年11月3日 9時0分
資本主義的な社会をうまく泳いでいく
帰国後、拓哉さんはスタートアップでバックエンドエンジニアとして働き始めた。異業種からの挑戦だ。今後も旅をしたり、海外移住をしたりすることも考えているため、リモートで働きやすい職種を選んだという。
詩歩さんは、CGクリエーターになるために講座に通っている。前職のときからクリエーターの仕事には興味があったが、「センスがないと無理だろう」と諦めていた。しかし旅を通して、年齢に関係なくやりたいことに挑戦する人々と出会い、「人生は一度なのだから、やりたいことは早めにやろう」と思うようになったのだそうだ。
旅をきっかけに、やりたい仕事へと一歩を踏み出すことができた2人。しかし、帰国から半年ほどが経った今、状況は変わってきているのだと、拓哉さんは苦笑いしながら教えてくれた。
「東京で働いていると、ふたたび周囲の価値観に染まっていっている自分を感じます。成長して、給料を上げて、生活水準を上げて……といったように、常に上を目指していかなきゃいけないようなプレッシャーを、勝手に感じてしまうんです。『周りの目を気にしないようにしよう』と誓ったんですが……継続するのはむずかしいですね」(拓哉さん)
しかし拓哉さんは、「旅に行く前よりは、ずっといい状態になっています」と続ける。
「経済的に危機的な状況にある国も訪れたので、日本がいかに恵まれた国かということにも気がつきました。こんなに物が豊かで、治安が安定していて、清潔で、仕事の選択肢もある国はなかなかない。
たしかに、利益や成長を追い求める資本主義的な価値観を内面化しすぎることの危うさもあります。だからといってすべて否定するのではなく、そんな価値観に溺れず、どうやってこの社会をうまく泳いでいくのかが大事だと、今では思っています」
拓哉さんや詩歩さんのなかで、旅先で出会った人たちの存在が、今でも生きている。
「仕事で思い詰めそうになったら、『地球の裏側では、おばあちゃんがのんびりと路上で野菜売ってるんだよな』と思い出します。そうすると、『そんなに思い詰める必要ないな』と、楽になるんです。そんなふうに、旅を通して価値観のものさしをいくつも持てるようになりましたね」(拓哉さん)
2人が大事にしたいことに気づき、実践するきっかけに
最後に、パートナーと旅をすることについて、どう思うか聞いてみた。中村夫妻の旅は、2人の関係性にとってもいい影響をもたらしたそうだ。
「僕らの場合は旅の間に、『周りを気にしすぎず、無理せず、自分たちのペースで生きていく』ということを今後の人生のコンセプトにしようと話していて、今夫婦で実践できています。
いろいろな物事にふれる中で、人生で大切にしたいことに2人で気がついて、2人でそれを実践していける。それが、夫婦で旅をする意義なんじゃないか、と思っています」(拓哉さん)
キャリアブレイクは、ひとりの人生にとっても、2人の関係性にとっても、大きな転機になるようだ。
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山中 散歩:生き方編集者
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