北海道新幹線「開業延期」で迷走する並行在来線 住民の意見を無視し、道はバス転換にこだわる
東洋経済オンライン / 2024年11月4日 6時30分
北海道交通政策局並行在来線担当課長の小林達也氏によれば、北海道中央バスなどバス会社と鉄道代替バスの相談を始めたのは、廃止の方針を決めてから1年以上経った「2023年5月になってから」であること。さらに、鉄道の維持については「財政的な負担」であるという認識を示し、道の仕事のずさんさと政策姿勢を浮き彫りにした。
こうした道の政策方針を受けてか、各地で行われた並行在来線の住民説明会では行政側は住民に対して問題ある対応を繰り返していたようだ。蘭越町の住民説明会に参加した町民の女性は「『鉄道を残すと住民の負担が増えることになる』と半ば住民に対する恫喝ともいえるような態度を示され、異論を唱える余地すら与えられなかった」と不満を漏らす。
福島県の只見線のケースなど、ローカル鉄道であってもその活用次第では、地域外から大勢の観光客を呼び込むことができ、地域に対してその赤字額を十分に上回る経済効果が発揮できるという事例が増え始めている。しかし、道の政策姿勢は目先のコストカットのみにしか意識がなく、地域に対する総合的な影響を考える能力が欠如しており、新幹線開業の経済効果を、並行在来線を活用することで地域に波及させようという発想は微塵もない。
原発災害時の避難輸送に鉄道は必要だ
さらに、小樽市の住民説明会に参加した50代会社員の男性は「在来線の沿線に近い泊原子力発電所の災害時の住民避難の手段として鉄道の維持が必要なのではないか」と会場で問題提起をしたが黙殺されたと証言する。実際に、北海道防災会議が発行する北海道地域防災計画(原子力防災計画編)には、放射能漏れなどの原子力災害時にJR北海道とJR貨物北海道支社が救助物資と避難者の輸送協力に関する指定公共機関とされており、「函館本線(長万部―小樽)輸送力」として同区間のダイヤと使用車両と定員を詳細に記した補足資料も添付されている。前出の男性は、「後志管内約8万人の住民をバスと自家用車だけで避難させるのは不可能ではないか」と指摘する。
道は、こうした住民からの指摘すらも黙殺し、地域交通の破壊を進め原子力災害時の地域住民の被曝リスクを高めるとともに、地域経済活性化の機会すら奪うつもりなのだろうか。
櫛田 泉:経済ジャーナリスト
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