自衛隊「対敵特殊部隊」訓練が非現実的な理由 特殊部隊が侵入できない日本の現実を考えていない
東洋経済オンライン / 2024年11月10日 9時30分
演習の自隊警備でも、指揮官や幕僚が乗り気だとたいへんなことになる。将官は勝ちにこだわる傾向が強い。昇任も出世競争での勝ちに執着した結果だ。
だから演習でも陸自レンジャーとの勝負には熱心になる。幕僚もアピール好きだと始末に終えない。「ありとあらゆる事態に対処する」と豪語して過度警備を強要してくる。
25年前には、将官指示で人垣を作ったことがあった。「レンジャーの侵入は絶対に許すな」との指示により、隊員が重要施設を人間の鎖で囲った。
また、幕僚が「バルカン砲を出せ」と言い出した話もあった。当時の防空警衛隊が持っていた対空砲で水平射撃をする話だ。断った旨の報告の後に「巻き添えで隊員100人が死ぬ」や「たかが演習の勝ち負けで民家方向に砲身を向けるマヌケ」と皆でこの提案をした幕僚を酷評した。
真剣に考えての自隊警備なのか
といった具合に、いずれにせよ自隊警備に力を注ぐとたいへんなことになる。肝心の基地機能が低下する訓練なのだ。航空基地なら飛行機の整備員が警備ばかりで、整備が進まない状況となる。
これでは本末転倒だ。自隊警備は基地機能を維持するために実施するのに、その自隊警備に熱心となってしまうと、かえって基地機能を損なうのである。さらに、今の自隊警備には根本的な問題もある。本当に起きる事態なのか、それを真剣に考えて実施しているようには到底、思えないのだ。
はたして、レンジャーに相当する精鋭部隊が自衛隊基地を襲撃する事態は起きるのか。実際にはありえない。日本の状況や敵国の立場からすればそうなる。
それは、第1には、準備が難しいことである。特殊部隊の人選や日本に潜入する段階から実施は困難だ。日本社会で活動できる人員はなかなか揃わない。一見して日本国民と区別がつかない、ヤマト民族やアイヌ民族と同じ顔つきであり、そのうえで母語水準の日本語話者が必要となる。それを特殊部隊から、条件を緩和しても軍隊のなかから揃えなければならない。
顔つきが相対的に似ている中国や北朝鮮でも、10人を揃えられるかどうかだろう。おそらくはロシアはさらに少ない。東アジア的な容貌の人員はいくらでもいるが、流暢な日本語話者を選抜することは無理だ。
日本への潜入も厄介である。なによりも四周を海に囲まれており陸路での潜入はできない。不審船からの上陸や軍用輸送機からのパラシュート潜入も難しい。海上保安庁、海自、航空自衛隊、水産庁、税関、漁民らに監視されているためだ。他国とは事情が違うのだ。
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