坂口安吾の「堕落論」東大生にこんなにも刺さる訳 戦後の作品だが、現代人にも通じるメッセージ
東洋経済オンライン / 2024年11月11日 13時0分
時代を超えて愛される数々の名作。教科書で名前は知っているものの、どんな物語なのか、よくわからない作品もあるのではないでしょうか。『名作に学ぶ人生を切り拓く教訓50』を上梓した東大カルペ・ディエムの西岡壱誠さんが、坂口安吾の『堕落論』についてお話しします。
浪人時に先生から薦められた「堕落論」
東大に合格している人は、文系理系問わず、名作文学を読んでいる場合が多いです。学内の食堂に行くと、「やっぱり太宰治はいいよね」「自分は武者小路実篤が好きで〜」といったような文学トークをしている東大生をよく見かけます。日常会話のレベルで話すくらい、文学作品が好きな東大生は多いわけです。
【写真】『名作に学ぶ人生を切り拓く教訓50』(西岡壱誠)では、時代を超えて愛される数々の名著を解説。
文学に触れるような授業があることや、高いレベルでの教養が求められる東大入試において文学の知識も求められる場合があるなど、さまざまな理由が考えられますが、やはりいちばんは「東大受験を乗り越える過程で、苦しい思いをしたときに、文学に支えられた人が多いから」なのではないかと僕は考えています。
例えば、僕が浪人して、予備校の東大志望のクラスに入ったときに、国語の先生からとある作品を読むことを勧められました。それは、坂口安吾の「堕落論」です。
「東大に落ちた人間たちに対して、よくもまあ『堕落論』なんてタイトルの本をおすすめするな、この先生は……」と思ったのですが、不思議なもので、確かに「堕落論」を読むと、浪人している自分のことを肯定して、もう一度頑張ろうという気になれたのを覚えています。
東大に合格してから大学でできた友達に「堕落論」の話をすると、不思議とこの本を読んでいる人は多く、「受験でうまくいかないときに読んでいた」という話をよく聞きました。
今回は、この「堕落論」という作品についてお話ししたいと思います。
「堕落論」は、要約すると「人間は堕ちるもので、堕ちることは救いだ」というメッセージが込められています。
人間は誰しも、美しいものを美しいままで保ちたいと思う精神性を持っている、と著者は語ります。花は美しいけれど、放っておいたら枯れてしまい、朽ちてしまう。だからこそ美しい状態のままで摘んで、その美しさを永遠のものにしてしまいたいと考える。人も同じですよね。美しい姿でいたいと誰もが思うものです。
でもその一方で、人間は堕落します。戦争が終わって、特攻隊の勇士・英雄と呼ばれた人たちが、闇屋で生きるかもしれないが、それでもいいのではないか。「死んでしまった夫のために一生独身で生きていこう」と考えていた女性も新しい男性の影を追っているが、それでもそれは間違ったことではないのではないか。
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