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茶室をリノベし自分空間に、アラ還男性の理想郷 旅立つ前に夫が20歳下妻に贈った「終の棲家」

東洋経済オンライン / 2024年11月13日 8時20分

リビングから入れる洗面脱衣室を通り過ぎれば、そこは夫のプライベートルーム。座イスのように背もたれが変化する電動ベッドから、窓越しに海を見下ろすことができる。また、車イスでも移動がしやすいよう、部屋から直接トイレにも行ける配置とした。

しばらくして、「主人は、海を見ながらとても満足そうでした」とTさんより連絡をいただいた。そのとき知ったのだが、完成後まもなくTさんの夫は旅立ったという。

そう、この家はTさんから夫への、最期の時間を一緒に過ごすためのプレゼントだったのだ。海を眺めながら互いを案じ合う姿を想像して、私も感無量であった。

夫から妻への最後のプレゼント

この家は、夫から妻へのプレゼントでもあった。

Tさんはこれから先、30年は住まいの心配をすることなく、美しく穏やかな日々が過ごせることであろう。仮に介護施設に移ることになったとしても、高齢者に配慮した使いやすい平屋であるから人に貸したり、売却もしやすい。

60歳を過ぎて家を建てるのも悪くない。こんな幸せが生まれるケースも実際にあるのだから。

Sさんの住まいは、もともとは山の頂にある茶室だった。それを私が洋館にリノベーションをしたのが数年前のこと。

新居祝いにうかがうはずが、コロナ禍で延び延びになって早5年。ようやくお邪魔できた彼の住まいは、アラ還でシングルのSさんのおもちゃ箱になっていた。

茶室を改造したので、床面積は30平方メートル足らず。

スペックだけなら、さぞ貧相な暮らしぶりなのでは?と心配されるかと思うが、天井を高くして天窓を付けたり、廊下をなくしたり、ロフトを活用することで、実際の床面積よりずっと広々と感じられる。

南側の掃き出し窓からはウッドデッキ越しに太平洋を臨むこともできる。訪問した際はあいにくの雨であったが、空と海とのグレーのグラデーションがぼんやりまどろむ時間を与えてくれた。

リノベでさらにアップデートされていた

「夏だと水蒸気で海が霞むけど、冬はコバルトブルーになる。そこが気に入っているんだよね」とSさん。住み手ならではエピソードだ。

玄関を開ければLDKが広がる。リノベーション工事の際には、Sさんが独自に入手した古い建具や電気機器などを取り付けたのだが、すべてアップデートされていた。

自家製の窓、ブラインド、棚、ベッド、調理器具を吊り下げる格子、外には農機具倉庫に木製フェンス、シャワー。すべて自分でつくったという。

現役時代は、パソコン黎明期からのコンピュータープログラマーだったSさん。ゼロからつくり上げることが好きでたまらないといった様子。細部や仕上げの完璧さにはこだわらず、夏休みの工作のように独創的だ。

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