トランプは威信を懸けてウクライナを停戦させる 「威信」こそがアメリカファーストの根幹だ
東洋経済オンライン / 2024年11月13日 15時0分
そして、アメリカは武器や財政支援などいっさいせず、ロシアの占領地は、そのままロシアとするというものである。そしてウクライナのNATO入りは、当面なしということだ。
こうした提案は、ゼレンスキーが主張している勝利プランと真っ向から対立する。ゼレンスキーからすれば、戦争がアメリカがけしかけて始まったにもかかわらず、いつのまにその火付け役が逃げでしまったという気持ちであろう。
ゼレンスキーの勝利プランでは、いまだにドンバス、クリミア地域などはウクライナであり、モスクワ攻撃も含めた全面的攻撃が考えられている。
現状からいって、ゼレンスキーの勝利プランで突き進むとすれば、NATOを巻き込む全面戦争しかないであろう。そうすると、第3次世界大戦となる。それを避けるならば、ウクライナのロシアへの領土割譲なども含めた一種の降伏という形で、ロシアと停戦にこぎ着けるしかないであろう。
バイデン政権すらモスクワ攻撃を行う意志は持っていなかった以上、ウクライナには戦争以前の領土を確保するという勝利プランを実現する可能性はほとんどない。
プーチンは、一方でどんどん領土を広げ、ロシア系住民の多いヘルソン、ザポロージャを含む地域をロシア領にして、ウクライナをNATOに属さない中立の状態にするという方向で動くであろう。
ウクライナ戦争の終結がどうなるのかは、世界にとって大きな問題だが、トランプのアメリカ、ヨーロッパ、ウクライナ、そしてロシアとの関係で、まだまだ終着点が見える段階ではなさそうである。
なんといっても、ウクライナ戦争での敗北はアメリカの威信の敗北となりかねない。トランプはそうはしたくないはずである。
できれば、アメリカの威信でロシアとウクライナの戦争が終わり、ともにアメリカの命令に従ってそうなったのだという成果をあげたいはずである。
NATOはどう出るか
しかしウクライナも、ロシアも引くに引けない状態であることは間違いなく、ウクライナは、最後はキーウまで占領されるところまで行き着いて海と国土の半分を失うことになるか、それとも完全消滅するか。
ロシアは、当初予定したロシア系住民の地域だけを手っ取り早く獲得し、ウクライナを中立化することで終わるか。これらはすべてNATOの出方次第である。
戦況から言えば、トランプ案はロシアにもウクライナにも譲歩を迫ることになるだけに、妥協可能な案かもしれない。しかしそうなれば、ヨーロッパがロシアという脅威に対し、自らの力で守り抜くしかない。となれば、困ることになるのはヨーロッパである。
的場 昭弘:神奈川大学 名誉教授
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