日本を「創造的破壊」ができない国にした「方針」 いま最も必要な「天才シュンペーター」の思想
東洋経済オンライン / 2024年11月19日 10時30分
しかし、ラゾニックの警告は無視され、日本は、株主価値最大化を追求する改革へと邁進していったのである。
例えば、2001年6月、小泉純一郎政権の下で、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」、いわゆる「骨太の方針」が初めて閣議決定された。この「骨太の方針」は、「預貯金中心の貯蓄優遇から珠式投資などの投資優遇へ」と宣言し、株主価値最大化のイデオロギーを高々と掲げた。
今日まで続く、株主重視の「コーポレート・ガバナンス改革」の火ぶたが切って落とされたのだ。
これは、ラゾニックに言わせれば、企業がイノベーションを起こせないようにする方針を宣言したに等しい。
そして、実際、日本企業はイノベーションを起こせなくなった。「失われた10年」は、「失われた30年」へと延長されて、現在に至っている。
シュンペーター読みのシュンペーター知らず
なお、この2001年の「骨太の方針」は、その中で「創造的破壊」という言葉を使ったことでも知られている。
「創造的破壊」というのは、シュンペーターが『資本主義・社会主義・民主主義』の中で、イノベーションのさまを表す表現として使い、広めた言葉である。
ところが、このシュンペーターの言葉を引用した「骨太の方針」は、シュンペーターの遺産を受け継ぐラゾニックの「革新的企業の理論」に反するような方針を決定していた。そして、日本を「創造的破壊」ができない国にしたのである。
シュンペーターは、日本でも人気の高い経済学者である。特に「創造的破壊」という言葉は、ビジネス雑誌などにおいても、好んで使われてきている。
しかし、シュンペーターの名や「創造的破壊」という言葉は知っていても、実際に、シュンペーターの著作を読んだ人は、経済学者ですら、少ないのではないだろうか。読んだだけではなく理解した人となると、もっと少ないだろう。
だから、シュンペーターの「創造的破壊」という言葉を使って、イノベーションが起きなくなるような改革を実行するなどという愚行に走ってしまうのだろう。
もっとも、シュンペーターの主要な著作は大著ばかりであり、しかも難解であり、容易に読めるとは言い難い。
そこで、シュンペーターの理論のエッセンスを、一般の読者でも容易に理解できる入門書を書いた。
それが『入門 シュンペーター:資本主義の未来を予見した天才』である。
イノベーションを起こすには、どうしたらよいか。是非、シュンペーターから学んでほしい。
中野 剛志:評論家
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