深刻なプラスチック汚染、生産自体に総量規制を 汚染研究の第一人者が期待する条約制定
東洋経済オンライン / 2024年11月21日 8時0分
私たちの研究室では土のう袋の一部を切り取って有機溶媒に溶かし、質量分析計で特定の紫外線吸収剤が含まれていないかをチェックした。抽出だけでも1週間を要したが、UV328が検出された。私はそのことを国際会議で報告し、それも一因となって有害化学物質を規制するストックホルム条約でUV328は使用禁止となった。
――UV328は人体からも検出されているのでしょうか。
私たちの測定では、今のところ、人体からは検出されていない。ただ、海鳥からはすでに見つかっている。私たちの研究室では、世界中の研究者に呼びかけて、海鳥の尾羽の付け根から分泌される脂をサンプルとして送ってもらっている。それらを分析して、成分を調べている。
UV328はこれまでにマリオン島やゴフ島といった、南アフリカ共和国と南極の間にある無人島から採取された2種類の海鳥の尾羽の脂から、高い濃度で検出されている。
プラスチックが有害物質の運び屋に
――そこからどのようなことが言えるのでしょうか。
世界規模でプラスチックによる汚染が広がっているという事実だ。添加剤を含んだプラスチックが漂流し、それを食べた海鳥の体内の脂肪にたまっていることがわかった。ここではセンチメートルないしミリメートル単位のプラスチックが運び屋となっている。
オーストラリアの西海岸では、UV328の類縁物質であるいくつかの添加剤が海鳥の尾羽の脂から高い濃度で見つかっている。こうした物質が原因と思われるが、その海鳥では血液中のカルシウムの濃度の減少が認められている。
その結果、卵の殻が薄くなり、孵化する前に外敵に襲われることで繁殖率が落ち、種の絶滅につながることになる。実際には、このアカアシミズナギドリという海鳥の個体数の減少も報告されている。
――ストックホルム条約でUV328の生産や使用が禁止されたことで、事態は改善に向かうのでしょうか。
UV328についてはそう言えるが、同じように懸念されている化学物質がまだ、数百、数千というオーダーで存在している。一つ一つ、その有害性を調べていては間に合わない。
そこで、プラスチックそのものに網をかけて、全体の生産量や使用量を減らしていく必要がある。そうすれば、懸念のある化学物質への曝露を抑えることもできる。その点からも、新たな条約でプラスチック生産量の総量規制が盛り込まれることを期待している。
――その場合、どういった種類のプラスチックを規制する必要があるとお考えですか。
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