「進歩的な君主」がとてつもなく残虐にもなった訳 制度によって人は善人にも悪人にもなり得る
東洋経済オンライン / 2024年11月25日 11時0分
レオポルドは、そのような国民の認識を変え、自らの王国の偏狭さを脱する必要がある、と判断した。「ベルギーは世界を利用して利益をあげていない」とレオポルドは嘆いた。「この国に、そうするだけの分別をわきまえさせなくてはいけない」。
他のヨーロッパ列強がアフリカを山分けしはじめると、彼はますます欲望を刺激された。「アフリカというこの素晴らしいケーキのひと切れを我が物にする絶好の機会を見逃したくはない」。
レオポルドは、自らコンゴ自由国と名づけた場所を支配下に収めた。この新領土は、ベルギーの76倍もの広さがあり、アフリカというケーキでもかなり大きなひと切れだった。だが、そのひと切れはベルギーのものではなかった。レオポルド自身のものだった。彼が事実上所有していた。コンゴは彼個人の領土となった。
レオポルドを破綻から救った思いがけない発見
だが、レオポルドは植民地の運営の仕方がまったくわかっていなかった。たちまち彼は、完全にお手上げの状態に陥った。負債が膨らむ一方だった。彼は、例のガイドブックからは、迫りくる財政破綻への対策は学んでいなかった。
だが、その破綻に見舞われる前に、偶然の科学的発見と大量の自転車によって、思いがけないかたちで救われた。
この数十年前、ゴムに対する熱狂がアメリカ全土を駆け巡った。ブラジルの木々から採れるベタベタした樹液によって、ありとあらゆる種類の胸躍るような新製品の製造が可能になりそうだった。投資家たちは、ゴムの生産に何百万ドルも注ぎ込んだ。
だが、ゴムは熱くなると融けて悪臭を放つ膠(にかわ)状のものに変わり、冷えるとボロボロになってしまうことがわかると、その熱狂も薄れてしまった。ゴムのレインコートは、夏に着ていると、融けて滴り落ちた。
やがて1839年、チャールズ・グッドイヤーが、融けたゴムの中に誤って硫黄をこぼしてしまった。彼が図らずも作り出し、「加硫ゴム」と呼んだ混合物は、通常のゴムとは違い、奇跡のような特性を持っていた。水を通さないのだ。
だが、この画期的な発明があったにもかかわらず、ゴムの需要はどうしても低迷した(グッドイヤーは、少なくとも20万ドルの負債を抱えて亡くなっている)。
需要が増えたのは、後になってからだった。グッドイヤーの死から20年以上過ぎた1880年代後半に、ジョン・ボイド・ダンロップという名のスコットランドの獣医師が、デコボコした道路を息子が三輪車で滑らかに走れるようにするために、新しいゴムタイヤを発明した。
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