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「進歩的な君主」がとてつもなく残虐にもなった訳 制度によって人は善人にも悪人にもなり得る

東洋経済オンライン / 2024年11月25日 11時0分

ときには、退屈した兵士たちがコンゴ人を射撃訓練の的にした。公安軍のある兵士は、自分の花壇を20の人間の首で飾ったという。

見世物にされたコンゴ人たち

宗主国のベルギーでは、「エキゾティックな」コンゴに対する関心が高まった。アダム・ホックシールドが説明しているように、レオポルドはブリュッセルで開かれた1897年の万国博覧会のために、コンゴ人を「輸入」して展示した。王は、267人の大人と子どもを見世物にして国民を楽しませた。

コンゴの人々は、「文明化」されるさまざまな段階を示しているという触れ込みで新設した、紛(まが)いものの村々で、暮らしぶりを見せることを強いられた。来場者は、囚われの身の「村人たち」がそれまで味わったこともないベルギーのお菓子を与えては面白がった。

コンゴ人のうちには、糖分の取り過ぎで気分が悪くなりはじめる者も出た。そこで、そのような行為をやめさせるために、展示者側は次のような言葉を掲示した。「この黒人たちには、組織委員会が餌をやっています」。「建築王」は「人間動物園」を建設したのだった。

レオポルドが亡くなるまでに、200万〜1200万のコンゴ人が殺された(これほど多くの人の殺害を言い表すために、アフリカ系アメリカ人の調査報道記者ジョージ・ワシントン・ウィリアムズは、「人道に対する罪」という言葉を造った)。

死亡者の数は壊滅的だった。だが、利益は驚くほど厖大だった。『レオポルド王の亡霊』に詳述されている控え目な推定によれば、レオポルドは今日の価値にして11億ドルに相当する金額を自らの懐に収めた。

その一部は、ベルギーに壮大な記念建造物を建てるのに使われた。それらの建造物には、今日も依然として観光客が群がっている。彼らは、史上屈指の残虐行為によって調達した資金で建てられた建物が落とす影の中に、そうとは知らずに立っているのだ。

レオポルドの残虐行為は遠い過去の話だなどと誤解するといけないのでつけ加えておくが、彼の葬儀のときに赤ん坊だった人が、今なお数人存命している。

制度によって人間は大きく変わる

このように、1人の人間が2つの制度に君臨した。レオポルドは、ベルギーでは責任を問われ、監視されていた。生命には価値があった。一方、コンゴ自由国では、王は誰に咎められることもなく専制政治を行い、彼の残虐行為は隠蔽された。人の生命ではなくゴムに価値があった。

政治学者のブルース・ブエノ・デ・メスキータが主張しているように、これは世界最悪の自然実験であり、人種差別主義の極悪人が、ある制度では抑止され、別の制度では束縛を解かれうることを示している。

もっとも、歴史は正反対の筋書きで書かれることもある。真っ当な人間が権力のある地位に就かされ、ひどい制度を監督させられたらどうなるのか?

(翻訳:柴田裕之)

ブライアン・クラース:ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン准教授

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