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がん治療の現場に異変、深刻化する「医師の偏在」 「医師不足で手術待ち数カ月」の恐怖シナリオ

東洋経済オンライン / 2024年11月25日 7時10分

松戸市や柏市のお産を支える松戸市立総合医療センター。診療体制は逼迫(写真:編集部撮影)

日本各地で深刻化している医師不足。しかし、日本国内の医師数は増え続けている。いったい何が起きているのか。『週刊東洋経済』11月30日号の第1特集は「医者・医学部 崖っぷち」だ。医師不足をはじめとした診療現場を取り巻く現実、その一方で盛り上がりを見せる美容医療、さらに医学部の最新事情を取り上げる。

胃がんや食道がん、腸閉塞など、腹部のさまざまな疾患を担当する消化器・一般外科医。医師の中でも花形であるこの職で、異変が起きている。20年近く医師の総数は増えているのに対し、消化器・一般外科医は減り続けているのだ。

【図表】主な診療科別の医師数の推移

最大の課題は若手の少なさ

日本の消化器がんの治療成績は世界トップを誇る。だが、「このままでは、日本のがん治療の質が保てなくなる」。長年、肝臓や膵臓(すいぞう)の治療を行ってきた自治医科大学の佐田尚宏教授は、こう危惧する。

膵臓がんには死亡リスクを伴う難しい手術がある。例えば膵頭十二指腸切除術という手術。世界での術後の死亡率はおよそ5%だ。だが日本の大規模病院では1%を切り、自治医科大学附属病院に至っては2001年以降、死亡率ゼロを誇る。佐田教授は、将来、外科医の不足によって、このような治療成績を保てなくなる可能性があるとみる。

最大の課題は若手の少なさだ。日本消化器外科学会では会員数が最も多いのは60代以上。10年後には、現場で活躍する65歳以下の消化器外科医の人数は現在の約4分の3、20年後には半減と試算している。10年後には経験を積んだ医師が大量に引退し、少ない若手医師が現場を担う事態となる。

背景にあるのは、医師の働き方改革が始まってもなお改善しない、外科医の過酷な労働環境だ。

国立病院機構のとある病院に勤務する、40代外科医の一日を見てみよう。朝6時台に出勤し、7時半まで「自己研鑽」という名目で、無給で雑務をこなす。回診とカンファレンスを終え、午前9時から午後10時まで手術室にこもる。外科の手術は長時間に及び、10時間を超えることはザラだ。

だが、いわゆる名ばかり管理職であるため、夕方5時以降は無償労働だ。午後11時に回診を終え、翌早朝からの勤務に備える。

医師不足は診療体制の縮小にもつながる。東海地方にある600床の病院の消化器外科では今年、日中の院外からの緊急手術要請を断ることが増えた。同院の医師は「受け入れたくても、予定されていた手術だけで人員が精いっぱいで、断らざるをえない」と語る。

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