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94歳「伝説の大道芸人」命を削って踊り続ける理由 身体が思うように動かなくても、観客は満員

東洋経済オンライン / 2024年11月30日 9時0分

弟の光春さんにも、ギリヤークさんのすごさを聞いた。安土桃山~江戸時代にかけて活動した女性芸人で、歌舞伎の創始者とされる出雲阿国の名を挙げ、光春さんは「彼も大道芸のひとつの形をつくってきた」とギリヤークさんを評する。

「ああいう踊りをすることが、彼の人生の目的だったんじゃないかな。前世は舞踊家だったかわからないけど、やっぱり同じような道を歩んできたのだろうな。そして今生もそういう生き方をしている。だから、自分の魂や心が知っているんだよね、どうすればいいかっていうのを」(光春さん)

そして、ギリヤークさんの踊りから発せられる「魂のエネルギー」に、人々は引き付けられるのでは、と続ける。今はヨタヨタでどうしようもないけど、と笑いながら付け加えた。

その1週間後、新宿の三井55広場。ここは、ギリヤークさんがほぼ毎年公演を行ってきた「聖地」である。快晴の空の下、約300人の観客が集まった。

公演前、黒子の紀さんが登場し、前説でギリヤークさんはあまり体調が良くないことに言及。その後、ギリヤークさんが車いすで登場した。動きや表情はほぼない。

無事に公演はできるのだろうか……おそらくは筆者だけでなく、観客たちもそんな一抹の不安を抱きながら見守っていたが、演目の音楽が鳴るとギリヤークさんは覚醒。身体は思うように動かなくても、激しく強い気持ちが伝わってくる舞いを披露し、ついには車いすから立ち上がって大喝采を浴びた。

演目の間には、薬の副作用で眠りそうになってしまう場面もあったが、紀さんが耳元で音楽を流すと、身体が自然と反応したのか踊り出し、芸人魂を見せつけた。

クライマックスでは、紀さんに支えられながららせん階段を上って観客に見得を切り、バケツの水を被るパフォーマンスを披露。観客から万雷の拍手と「ギリヤーク!」「日本一!」という掛け声や、おひねりが飛び交った。マイクを持ったギリヤークさんは、感極まった様子で「母さん、父さん、日本一の大道芸人になりましたよ」と声を絞り出した。

これが神の「やつし」か

観客たちにも話を聞いた。ギリヤークさんの活動初期から公演を見続けてきたという、演出家の小島邦彦さんと舞台俳優のそのだりんさんは、活動を継続していることがそもそもすごい、と感想を口にする。

「僕は73歳になるんですけど、20歳くらいの頃からずっと観てたからね。90歳でクローズだろうと思っていたけど、まだあるっていうのが本当にすごい。(公演中に)寝ちゃうところもすごいね」(小島さん)

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