「紫式部の日記」に記された"明らかに異質な箇所" 突如手紙文体に、誰かに向けて書かれたもの?
東洋経済オンライン / 2024年12月1日 7時40分
宮中での人付き合いの大変さを実感している式部だけに、いわゆる「女房マニュアル」を娘に残しておきたいという親心は理解できる。
前述したように、このパート2のあとは時系列がわからないパート3を経て、パート4でまた日記に戻っている。 記されているのは、 寛弘7(1010)年1月15日までのことだ。
敦良親王の「五十日の祝い」での管弦の演奏について触れながら、次のように綴られている。これが、現存している日記としては最後の1行となる。
「道長様から帝への贈りものは横笛二本、箱に入れて送呈した」
(御贈物、笛歯二つ、筥に入れてとぞ見はべりし)
このとき式部は30~38歳で、道長は42歳の頃だ。道長はこれから約20年足らずの万寿4(1028)年12月4日に没している。
一方の式部は、40代半ばから60代を迎えた頃までと没年に幅がある。ここから数年後に亡くなったのか、それとも第2の人生が始まったのか。式部の晩年についてはよくわかっていない。
女房として奮闘した日々を思い返す
だが、本人の心持ちについては、『紫式部日記』のなかでも特異なパート2で吐露されている。
「世の中の煩わしいことは、もはや心にも留めなくなってしまったので、出家して尼になっても修行を怠ることはないでしょう。ただひたすら世に背を向けて出家したとて、往生の雲に乗るまでに迷いやためらいは、あるかもしれません。それゆえに躊躇しているのです」
(世の厭はしきことは、すべてつゆばかり心もとまらずなりにてはべれば、聖にならむに、懈怠すべうもはべらず。ただひたみちに背きても、雲に乗らぬほどのたゆたふべきやうなむはべるべかなる。それに、やすらひはべるなり)
結婚から夫と死別し、長編物語を書きながら宮仕えをする……という、激動の生涯を送った紫式部。宮中を去るときには、栄華を極めた道長の姿とともに、女房として奮闘した日々を思い返したことだろう。
【参考文献】
山本利達校注『新潮日本古典集成〈新装版〉 紫式部日記 紫式部集』(新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
倉本一宏編『現代語訳 小右記』(吉川弘文館)
今井源衛『紫式部』(吉川弘文館)
倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書)
関幸彦『藤原道長と紫式部 「貴族道」と「女房」の平安王朝』 (朝日新書)
倉本一宏『三条天皇―心にもあらでうき世に長らへば』 (ミネルヴァ日本評伝選)
真山知幸『偉人名言迷言事典』(笠間書院)
真山 知幸:著述家
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