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マタギ修行する31歳、秋田で送る「最高の移住生活」 4LDKの一軒家に1人暮らし、山で糧を得て生きる

東洋経済オンライン / 2024年12月2日 9時0分

岡本さんの1年は山の恵みとともに過ぎていく。

春は川釣りが解禁になると、仕事の前や終わったあとに釣りに行き、イワナやヤマメを釣る。山菜は「ばっけ」と呼ぶフキノトウやこごみ。夏はほぼ釣り。秋はきのこ採り。まいたけ、なめこ、サワモダシ、ブナハリタケ、ホウキタケなど種類も豊富。松茸も採れる。

「阿仁の天然なめこは市販のものの倍以上の大きさで、味が濃くて本当においしいです。きのこ採りは夜に行くことが多いかな。通だから? いえ、阿仁では普通のことです。なぜなら昼間は仕事があるから。非常にシンプルな理由です」

なめこを缶詰工場に持ち込んで、自家用の缶詰にして保管する。これも阿仁暮らしのスタンダードだ。

冬は待ちに待った猟期。新雪にくっきり残ったクマの足跡を見つけると、心が躍る。クマ以外では山鳥やウサギを狙う。岡本さんが得意とするのは鴨だ。

暮らしの“糧”を得て生きる

阿仁ではマタギに限らず普通の家庭でも、畑で収穫する感覚で山に行き、採ってきた山菜やキノコや川魚がその日のうちに食卓に並ぶ。

日常的な自炊はできないという岡本さんだが、採れたてのきのこは友人宅に持っていき、きのこ鍋にする。鴨はさばいて香草焼きというしゃれたメニューを作る。イワナは釣ったその場でくし焼き。

秋猟で授かるクマは冬眠用に脂肪をたっぷり蓄えているので、熊鍋にすると脂肪が溶けて甘みがじわっと広がって、抜群にうまいという。

岡本さんが憧れた「山で、暮らしの糧を得て生きている」という生活。この“糧”は文字通り食料のこと。

「初めて釣りに行って、自分の釣った魚を食べたとき、糧を得るとはこういうことだ! と腹落ちしました。こういう暮らしは昔も今も阿仁では変わらずに続いている営みなので、僕の日常もそうなりました」

もちろん“マタギマインド”を離れて、仲間とレジャーを満喫することもある。8台駐められる大きな駐車場ではバーベキュー。家から歩いて5分の川辺にサウナテントを立てて薪ストーブを炊き、がんがん汗をかいたら川にダイブ。移住仲間や地元の友人との飲み会。

「僕は物欲もないですし、日が落ちると真っ暗になる阿仁の暮らしは、東京にいるより楽しい」

令和のマタギがめざすもの

さて、令和の今、マタギの後継者として岡本さんは何をめざすのか? こう問うと「時代の流れとはいえ、食糧を得る以上のことができていないという忸怩たる思いはあります」という答えが返ってきた。

その一方で、リスペクトする親方こと松橋さんも林業で生計を立てていたように、専業の狩猟者であることが、マタギの必須要件ではないようにも思う。

親方が大切にしているものは、マタギの技術と信仰、マタギであるプライドだ。この3点こそがマタギをマタギたらしめるものではないか。

「今の僕としては、純粋に山の神様への信仰を大事にしながら、狩猟や山を知るスキルを高めていくことに邁進します。そして、親方はじめ先輩たちの頭の中にあることや教えてくれたことを引き継いで、次の世代に継承させることが、僕の役目だと思っています」

あ、それから、と付け足して「自炊の腕も上げたいです」と笑った。

岡本さんがマタギ修行する大阿仁地区では、「マタギ文化や狩猟技術を一緒に継承する仲間を募集している」という(公式HP「阿仁マタギの伝統を継ぐ」)。

【写真を見る】めちゃくちゃデカい! 月5万円で借りられた「4LDK」の豪邸と、マタギ生活で得た“美味しすぎる糧”(8枚)

桜井 美貴子:ライター・編集者

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