貨物列車の「車軸折損」、本当の原因は何なのか? 不正追及の傍らで忘れ去られている技術の本質
東洋経済オンライン / 2024年12月3日 6時30分
これはもちろん不正行為の言い訳にはならないが、「圧入力の過大と過小、どちらが輪軸にとって危ないか」という質問に対して、「過小の方が危ない」という回答は正解である。
同プレスリリースでは当面の対応として、「検査結果データが基準値を超過していた輪軸を搭載した車両は運用停止(中略)可及的速やかに車軸の検査を実施します」とあるが、筆者は何を検査するのか疑問に思った。また同日の国交省プレスリリースには「安全に運転することができる状態であることが確認されるまで、使用を停止すること」とあるが、何をもって安全と判断するのかはまったく書かれていない。
ことの発端は車軸折損による脱線事故である。その再発防止が最優先であるはずなのに、不正行為の追及が最前面に出てきて、技術の本質が忘れ去られているように思えてならない。関係者が技術的に正しい認識を共有しない限り、作業上で決められた基準値を遵守するというだけでは、真の安全確保は達成できないと考える。
技術の本質を学ぶ姿勢
輪軸組立における締め代や圧入力について規定した日本産業規格「JIS-E 4504鉄道車両用輪軸-品質要求」が制定されたのは1970年である。その数値は旧日本国有鉄道規格JRSと同じだそうで、その数値の根拠は1949年に旧日本国有鉄道工作局が作成した仕様書に基づいているそうである。それまで現場任せだった数値を規格化した意味は大きいが、70年以上前に決めた数値で現在も管理が続いているということである。
前述したが、輪軸組立で重要なのは車輪が車軸をしっかり把握することで、その把握力は基本的に締め代で決まる。締め代は圧入部の内外径の差0.2~0.3mm程度であるため正確な測定は簡単でなく、組立作業の良否を管理する指標として圧入力が使われてきた。昨今の測定技術を使えば、把握力を直接測定することも可能かもしれない。今回の問題を契機に、圧入力の基準値や管理方法そのものを見直すべきと考える。
一連の報道に接すると、不正行為に対する“責任論”や“精神論”が前面に出てきて、基準値を逸脱したらどうなるかという“技術論”が見当たらない。筆者は基準値を下回った場合の問題については機械屋として説明できるが、輪軸組立作業に直接従事した経験がないので、上回った場合の問題についてはうまく説明できない。基準値や管理方法の見直しに当たっては、作業を熟知した経験者の意見を十分に聴くべきである。
日常的に事故が発生していた時代、関係者は事故現場を直接見て、否応なしに原因や予防策を考えざるを得なかった。しかし、現在のように事故の発生が稀になると(もちろんそれが目指してきたことなのだが)、関係者の学ぶ姿勢が欠如した場合、技術の本質を見失って適切な対応ができなくなる。今回の問題をどう結論付けるか、日本の鉄道技術が今後も発展を続けるか衰退するか、その岐路に立たされているように思う。
辻村 功:技術士(機械部門)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
セルビア「中国が改修」の駅崩壊で高まる不信感 「一帯一路」の一環、不透明さに市民ら抗議デモ
東洋経済オンライン / 2024年11月20日 6時30分
-
JR貨物、再び脱線事故 北海道内外の貨物輸送に深刻な影響か
ASCII.jp / 2024年11月18日 17時30分
-
JR函館線 列車脱線事故 復旧作業続く 19日から運転再開へ
HTB北海道ニュース / 2024年11月18日 16時31分
-
これは知らなかった! 事故車を移送するJAFの車両、その中身とは……? ベテランスタッフの実演にも感動
ねとらぼ / 2024年11月16日 20時0分
-
新幹線の乗客にとって「マジで最悪っ!!」な事態を想定した訓練とは? 「早く隣の列車に乗り移って!」
乗りものニュース / 2024年11月10日 9時42分
ランキング
-
1PayPay銀行 円・米ドル両方預金で金利2%に引き上げ
日テレNEWS NNN / 2024年12月4日 13時58分
-
2なぜユニクロの柳井氏は「ウイグル綿花問題」を語ったのか 中国で炎上しても、“あえて”発言した理由
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年12月4日 7時26分
-
3ガソリン価格、175円40銭 4週連続で値上がり
共同通信 / 2024年12月4日 14時32分
-
4“新幹線4割引”特典も…鉄道会社にプロ野球チームまで「企業の銀行サービス」ナゼ続々と?【THE TIME,】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年12月4日 7時0分
-
5ビール市場シェア拡大へ「プレモルがあってサントリー生があって金麦があることを強みに」…サントリー・鳥井信宏社長
読売新聞 / 2024年12月4日 13時34分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください