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朝ドラ「おむすび」をそれでも私が見続ける理由 大阪制作としてのコメディとリアリティを

東洋経済オンライン / 2024年12月3日 9時30分

2つ目は「もっとリアリティを」という期待だ。『舞いあがれ!』(2022年)もそうだったが、最近の大阪制作朝ドラの現代物は、リアルな関西臭がクレンジングされている気がする。昆布だしと薄口醤油の香りを、せめてもう少し立ち込めさせるべきなのではないか。

まず阪神・淡路大震災に関するリアリティという意味で、今回感心したのは10月28日放送、避難所でおむすびを渡す役を演じた安藤千代子の登場シーンである。自身も被災者で「震災の語り部」としても活動する安藤は『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 おむすび Part1』(NHK出版)で、こう語っている。

――実際に被災し、避難所で暮らした経験のある私だからこそ、セリフに込められる思いがあるのではと、使命感を持って演じました。撮影のときは、当時の情景や思いがよみがえり、あふれてくる涙を抑えるのに必死でしたね。この作品が、地震について考え、備えるきっかけになればと願っています。

NHK大阪による「震災リアリティ」といえば、森山未來と佐藤江梨子が出演したドラマ『その街のこども』(2010年、脚本は『カーネーション』の渡辺あや)が忘れられない。また、これはNHK東京制作だが、朝ドラ『おかえりモネ』(2021年)における、東日本大震災の被災者役・浅野忠信の凄絶な演技も。

求めるリアリティの1つは、そういう意味での「震災リアリティ」である。来年の1月17日は、阪神淡路大震災からちょうど30年となる日なのだから。

そんなシリアス系リアリティに加えて、野球ファンとして思うことは「野球リアリティ」の不足である。

現在(第10週)の時制は2007年。オリックスがコリンズ監督の下、最下位に沈んだ年である。新納慎也や岡嶋秀昭など、オリックスファンが劇中に出てくるが、言葉の端々に成績への愚痴や、イチロー、仰木彬を懐かしむ話のひとつぐらい出てきてもよさそうなものと思うのだが、どうか。

あと何といっても、社会人野球のエースを目指すのに、佐野勇斗はさすがに華奢に見える(関口メンディーは合格)。

脚本家・根本ノンジへの期待

最後になるが、このような期待を捨てられない理由として、脚本家・根本ノンジの存在がある。

『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(2021年)、『しろめし修行僧』(2022年)、『パリピ孔明』(2023年)など、彼の作品を追ってきた。特に『ハコヅメ』は気に入って、この連載でも取り上げた(『「ハコヅメ」戸田恵梨香が最強の存在感を放つ理由』)。

加えて今回、先の『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 おむすび Part1』への寄稿にしびれた。少々長くなるが、締めの部分を引用しておく。つまり最後の期待は、ここで語っているような「根本ノンジらしさ」をもっと、ということになる。

――この物語に出てくる人々は、歴史に名を残すような偉業を成し遂げた人でもなければ、突出した才能を持った人でもない。我々の身近にいるごく平凡な人ばかりだ。(中略)登場人物は実在の人物ではない。でも今回のドラマを描くにあたり取材に協力していただいた数多くの方々が体験したこと、思い、声が詰まっている。だからまるっきり架空の話ではない。これは平成という時代を生きた私たちの物語だと思っている。その気持ちを忘れずに、心を込めて、精一杯最後まで描きたいと思う。

スージー鈴木:評論家

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